APPLE VINEGAR - Music Award - 2021

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ASOBOiSM “OOTD”

後藤「ものすごく現代的な、『今』の感じがします。Zoomgalsのメンバーで、なみちえさんとかとも一緒にやってますけど、言葉選びとかも含めて面白い人たちが出てきて頼もしい。“女性なんとか”“ガールズなんとか”って言いがちなシーンに肘鉄を食らわせる人たちがたくさん出てきて、いいなと思う。そこで闘って、ストラグルしてきた福岡さんがここにいらっしゃいますけど」

福岡「(笑)」

後藤「チャットモンチーが抗ってきたことでもありますよね。Chaiやなみちえさんとか、いろいろな人たちが出てきて音楽業界が変わっていく流れを感じます。ASOBOiSMは会社員として働きながら作っていたんですよね。こういうふうに宅録の延長として、リリックを書いたり、トラックを作り上げた音楽っていうのも、やっぱり魅力的でいいなと思いました」

三原「歌もラップも、声はかわいいけど印象としてはカッコよくて、魅力的なバランス感だなと思いました。聴き心地はポップなんだけどリリックはリアルで。ポップソングって抽象的な歌詞のものも多いと感じてるんですけど、やっぱり私はこういう一曲一曲心に引っかかる曲が好きですね。本人が生きる環境の中で感じたこととか問題意識がしっかりリリックで言語化されているんだけど、タイトルみたいにキャッチーでリアルな若者文化も、恋愛の曲も、地元の曲もあるというバランスで。それってすっごくリアルだと思うし、でも心地良く聴けるのが良いなと思いました」

福岡「さっきゴッチさんが言ってくれたみたいに、”女性なんとか”とかいうのがダサくなるくらい、本当にカッコ良いです。女だからとかではなく、この人のオリジナリティ、この人にしかない物語や武器を持っているなと。あと、すごく優しいですよね。音も楽曲も優しくて、ご自身も優しい方なんだろうなぁと思って聴きました。聴き心地もすごくいい。元々弾き語りをされていたそうなんですけど、他の楽器のアレンジもいいから、ジャンルの守備範囲がかなり広い人なのかなという印象を受けました。それと、勇希ちゃんも言ってたんですけど、リリックが今の若い人たちにすごく刺さるんじゃないかな。社会の渦の中にいる自分の心のグラデーションが、上手く可愛らしく優しく表現されていて、余計にグッとくる。勇気をもらう人は多いと思います」

ヒダカ「一昨年くらいからかな、ビーバドゥービーとかリナ・サワヤマとか、UKの女性アーティストが凄かったじゃないですか。で、本人にはそういうつもりはないんでしょうけど、リナ・サワヤマに対する日本のアンサーのように、ロックとかヒップホップとか全部好きで消化して作っている。そういう意味では、ジャンル分けが無用な感じが、すごく羨ましい。BIMくんとかも存在としてはそれに近いけど、まだまだ文脈としてはヒップホップとして語られることも多いでしょう。一方でASOBOiSMはいろんな角度で語れる。これこそ、Mステに出ていただいたら健全じゃないかなと。ポップな仕上がりだし。ASOBOiSMが大きなメディアに出たときの化学反応を、見てみたいな。そういう期待もありますね」

Licaxxx 「私は、ちゃんとシンガー・ソングライターをしているな、という感じがしました。シンガーソングライターはギター一本でやらなきゃいけない、という定義はないと思うので。彼女はラップというジャンルをとってますけど、やっていることはまっすぐなシンガー・ソングライターだと思いますね。だから、個人的にはこの次の作品に期待したいなと既に思っています。ここから先の形はどうなっていくんだろう、というのがポイントなんだろうと」

後藤「そういう意味では、時代の変化を表している作品ですよね。ラップすることって、僕らの世代だと先人に怒られるんじゃないかとか、あるじゃないですか(笑)。違う文化のやつが勝手にやりやがって、みたいな。そういうのがもうこの世代にはない、というのを体現している作品なのかなと思います。すごく自由。関口シンゴくんっていうOvallのメンバーが参加したり、なみちえさんとやったり、それこそサイプレス上野くんとやったり」

三原「そうですよね、曲ごとのフィーチャリングの妙とかありますよね。どの曲も、曲調にマッチしてる」

後藤「ありますね、本当に面白い。ある種のプロデュース能力を、若い世代は皆さん持っているんだなと。BIMしかりASOBOiSMしかりで、アレンジャー選びとか、どういう人と仕事をするかにも目を凝らしている。特にソロでやっている人は、そういうのしっかりしていないとできないですよね」

Licaxxx 「確かに、大きなレコード会社とかじゃ、これはできないことかもしれない」

後藤「そうそう。ディレクターとか出てきて、メンバーを固められて、みたいな感じで作るんじゃなくて、自分で能動的にやりたい人を選んで構築していくところが自由だし、それが作品の良さに繋がっている」

福岡「すごく健全ですよね」

Moment Joon “Passport & Garcon”

後藤「2020年では聞き逃すことのできない作品の一つじゃないかと。やはり言葉選び…歌っていることにものすごく、突き付けられるものがある」

ヒダカ「刺しに来てるよね、完全に。すごいアルバムです」

後藤「ある種のアートフォームが持つクリシェってあるじゃないですか。使いがちな言葉とか。でも彼は、言葉の使い方の本質的なところに迫っている。表現としてすごいと思います。ドラマティックで、最後を”TENO HIRA”という曲で締めるところも含め、すごく考えられた作品。言葉の力を感じる作品でした」

ヒダカ「一冊の本を読み終えた時のような感覚だよね。文字の情報量も多いんだけど、なんとなく街で歩きながら聴いた時、景色とすごくマッチして…パーソナルなことを歌っているし、関西の人だけど関東で聴いても景色に合っていて『この世界こそこの人の歌っている状況だ』といういい意味での強迫観念にかられる。すごいアルバムです。曲やトラックの作りは決して重くなくて、緩急をつけながらの工夫も面白い。試しにランダムでも聴いてみたけどやっぱすごかった…とても練られたアルバムですよね。歌っている内容はハードコアだけど、音像はポップに聴ける仕組みで、何重もの構造になっている。すごいなと思いました」

後藤「この作品も、語る場所が非常に不足している作品の一つだと思いますね」

ヒダカ「人種的なことが入ってしまうと、難しくなってしまう」

後藤「うん、だから音楽じゃない場にも呼ばれることになりますよね。ラッパーとしての魅力もすごいんですが、社会的な文脈で語られる機会が増えるというか、音楽とは別のアングルからの注目が集まっちゃう。でも、音楽の枠組みの中でこうしたリリックについて語る場所は、意外とネットも雑誌も、そんなにないように感じていて」

三原「なんて感想言っていいのか難しい作品でしたけど、すごくいいし、インスパイアされるし、伝わるものも大きかったです。音とかライムとかフロウとか色んな要素があるけどやっぱり一番メッセージの部分ががすごい作品で。何も考えずに聴くことはできない。あと、この作品に何を言っても、本人にとっては違うんじゃないかとか、リリックから思わされました。だから簡単に言えないんですけど、これを聞いてMoment Joonさんの人生に起きていること、国境や人種、あと音楽ビジネスの中にあるリアルを垣間見ることができるドキュメンタリーでした。歌詞の中にも『リアルなぶん、俺はやつれる』とあったんですけど、さらけ出すと、搾取されたりアンチを受けたり、それでも伝わらなかったりして、自分も辛い構造になることもある。戦ってるアルバムだ、ってすごく思いました」

福岡「私は最初聴いたとき、心になだれ込んでくる怒りや悲しみの量が凄くて。自分のキャパシティでは足りないかもと、少し不安になりました。これほど痛みの感情がむき出しの作品を久々に聴いたので。でも、そもそも音楽はこういうもの、つまり気持ち良くなるためだけのものじゃなく、痛みを鳴らす作品があってしかりなんだと改めて気づきました。曲の展開やストーリーが本当に良くできている。まず企画書を作ってやったというのも、すごいなと。とても実直に、きちんとカウンターの準備をしている。プロフィールの段階で、彼がとても大きな刀を持っているとわかるじゃないですか。でも、いっぱい傷ついてこの武器を使うに至ったと思うと…もちろん一つ一つの傷について、私たちは想像しかできない」

後藤「うん」

福岡「だから勇希ちゃんが言ったように、彼に何を言っても『違う』となると思うけど、自分たちがどう思うかというアートを突きつけられている感じ。私は、いっぱい聴いて、最後は結局シンプルに、『かっこいい』しかないなと思いました」

Licaxxx 「こういう作品って、私は言っている本人より受け手が大事だと思うんです。だから私は、作品の内容は辛辣ですけど、捉え方としては辛辣なものとして聴いていなくて。これもある種、シンガーソングライター的な、自分のことを語るというどこまでも純粋なことを、こういう手法でやっているんだなと。受け手側によって…例えばただ恋愛の歌詞だと見えるものも、日本に住んでいる人が日本に住んでる人に向けたからそう思うだけで、本当は裏の社会背景の鏡のような作品は結構あると思うんです。ただそれは、受け手側がちゃんと受け取れるか、どうか。この作品は直接的な表現が多いからこそ、見る側によって変わってくる部分が強い、試されてると思う。で、そこに挑戦的な人がちゃんといるべきだと思うし、彼はそういうのをやってくれていると思った。どの時代にも、こういう形をとってくれる人がいるからこそ、層が厚くなる。こういう人がいて、ASOBOiSMみたいな人がいて、LEXみたいな人がいるから、レイヤーが厚くなっていいなと。この年に大事な作品だ、と思いましたね」

ヒダカ「この先、フィクショナルな題材で、彼が第三者的な目線でリリックを書いた時にどうなるのかも、楽しみだよね。フィクショナルな感じでも凄い作品ができそうだし」

後藤「やってのける文学性を持っている感じがしますね、すごく。こういうリリックが歌われたときに、これは一体どういう作品なのかという話ができる音楽賞はいいなと思います。聴く角度はいっぱいあっていいと思うんですよ。音響がいいとか、いろんな文脈があっていい。この作品はある意味、リリックの面での一つの到達点。すごいことをやってのけた人だと思いました」

ラブリーサマーちゃん “THE THIRD SUMMER OF LOVE”

後藤「これはシンプルに音がかっこいいです。90年代っぽい音像、多分UKロック的なものが参照になっていると思うんですけど、そういう音楽が少しずつ盛り上がっているなかでも、非常に良くできていていいなと。ギターの音もドラムの音もいいし、ただあの頃をなぞるわけでなくて、ちゃんと今の音像としてフレッシュに仕上がっているところがかっこいいなと思って聴きました」

ヒダカ「ラブサマちゃんは何度かライヴも拝見させてもらったり、参加メンツも知り合いなので、安心のブランドというか。だから何の疑いもなく聴いたんですけど、予想以上に良かったですね…目隠しして聴いた時に海外のアーティストじゃないかと思うくらい、インターナショナルな仕上がりになっていると思いました。ASOBOiSMの時にリナ・サワヤマを引用しましたけど、こっちはビーバドゥービーをリアルタイムでやってる、という意味で海外の動きと連動している部分もあって。ラブサマちゃんもMステに出て欲しいですよね。タモリさんに会って欲しい。めちゃくちゃいいアルバムですよね。とにかくポップなんですよね、シンプルに」

後藤「インディーが広く社会と接続するための例として、今のところMステしか回路を語れないのがあれですよね(笑)」

ヒダカ「(笑)それもどうかって話ですね。まあでも、シンプルにポップなアルバムだから、広く聴いて欲しい。ライヴもすごくいいからいろんな人に見て欲しいと思うし、フェスにじゃんじゃん出て欲しい」

三原「うんうん、この曲がフェスで鳴ってたらめっちゃ盛り上がりそうですね。みんな好きそう」

福岡「確かに、Mステでやったら、音楽やりたいっていう子が増えそう。さっきの話にもありましたが、自己プロデュースするのが普通になってきているんだというのを改めて感じました。数年前はメインストリームを聴かない人も可愛い、好き、と思えるところがあったと思うんですけど、今回のを聴くと、隔たりなしに全員引き連れてやったるぞ、みたいな気合を感じます。こういうこともできるんだよ、というのをラフに見せているのが、素晴らしいなと思いました。『好き』っていう人がたくさんいると思います。バンドをやりたいって思う子が増えるんじゃないかなって、とても楽しみです」

三原「私も、すごく好きですね。ダイナミックな感じや、ざらっとしたフィーリングがあって、声がハスキーで可愛い。魅力がいっぱいあるし、あと、歌詞がめちゃくちゃいいなと思いました。日々のちょっとした違和感に、ちゃんとあらがっていて。ラブリーサマーちゃんはすごく誠実な人なんだな、と思いました。え?って思うようなこととか、生きづらさとかが、絶妙に詩的に表現されている。歌詞が好きでしたね。あと、一番最後の曲、びっくりした。終わった、と思ってそのままにしていたら、急にピコピコ音が流れてきて」

ヒダカ「隠しトラック的なやつね」

後藤「懐かしい手法ですよね。CD時代の産物というか」

三原「そこにも、本人のユーモアも見えて良かった。ポップセンスもあるし、音楽好きにもハマるんじゃないかなと思いました」

Licaxxx 「なんかね、めっちゃいいんだけど、もし自分が制作側に入っていたら宣伝の仕方がわからない、と思いました。めっちゃいいし聴いて欲しいんだけど、どういうところにどうやって広げていくかが結構難しいアルバムなのかなと。だからこれも多分、ちょい埋もれ、だと思うんです」

三原「確かに、もっと話題になって欲しい」

Licaxxx 「そうなんだよ。なんか、どこにもはまらなくて埋もれちゃっている感じがして、もったいない。現代の流行りの型にはまってないところが好きだし本人もそんなつもりで音楽全然してないと思うけど、たくさんの人には聞いてほしい、もどかしい! なので、今回のノミネートは、意味があるなと思いました」

後藤「サウンドが洋楽の側に振り切ったというところが、語ることの難しさを生んでいるというのはあるかもしれないですね。今や別に英語じゃなくてもいい時代というか、世界中の音楽を、言葉のことを気にして聴かなくなっているようにも思うんです。ラップも、フランスの人たちはフランス語でラップするし、それを『お、かっこいいじゃん』とそのまま受け取る時代というか。一方で、そういうリスナーが日本で増えているかというと、そうでもない気もする。そういうなかで、確かにこれは語る場所を探すのが難しい」

Licaxxx 「うんうん。もしかしたらこれは逆輸入されるべき作品なのかな、とか。多分、ダイレクトに今の日本のイージーなリスナーに速攻刺さる感じではない音楽になってると思いましたね」

後藤「一番最初のGreen Assassin Dollarからそうですけど、この音楽を語る場所を見つけるのが難しいっていう問題が共通してあるように感じますね」

福岡「うん。それが今の世代の悩みなんですかね。細分化されていて」

後藤「アップルビネガー経由でラブリーサマーちゃんを聴いてくれる人がいる、と思うと嬉しいですよね。そうなってくれたらいいですよね」

三原「みんな絶対聴けよ、って書いておきましょう(笑)」

jan and naomi “YES”

後藤「すごく丁寧にドローンが敷いてあって好きです。jan and naomiは2020年に2枚アルバムを出していて、『Neutrino』っていうもう一枚の方も面白いんです。そっちはジャンクな感じがするというか、電子音がいっぱい入っていたり、ロックっぽい曲もあったり、色々なアイデアが放射している。2枚でノミネート、みたいなイメージもあります。とにかくクリエイティヴィティが溢れていてよかった。で、こういうアンビエントな音楽もまた、語る場所がないなと。ドローンが敷いてあったり、ノイズを含むような音楽はたくさんあるんですけど、日本のポップミュージックだと少し珍しいように感じる。多様性がメインストリームの側にはないのかもしれない。そういう意味でも、こういう作品に光が当たるといいなと思えるクオリティでした。すごく気持ちよくて、うわーいいなあと思いながら、スタジオで聴きました」

三原「そうですね、本当に美しい作品でした。夜、歩きながら聴いてたんですけど、そこに新たな世界が生まれるような。サウンドもコーラスも奥行きを生み出していて、静謐な空間の中でどんどん自分の感情も膨らませていく、みたいな聴き方ができました。それって多分、音楽的にすごく技術のいることだと思うんです」

ヒダカ「GREAT3の片寄くん経由で知ったんですけど、前はもっとこう、いい意味でミニマルポップ・ユニット的だったと思うんですよ…小作品を出したり、カフェライヴ的ことを中心にやったり。でもここへきて急に…なんか俺は、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインを感じたんですよね。音像は違うんだけど、めちゃくちゃシューゲイザー的な轟音の怒っている曲から、轟音だけを取った、みたいな」

後藤「角だけきれいにしていったみたいな」

福岡「ああー、なるほど」

ヒダカ「うん。アルバムを聴いた時に、ああ、めちゃくちゃこの人たち怒ってるなと思ったんですよね。ちゃんと歌詞を読んでいないので勘違いだったらごめんなさいですけど、ものすごく訴えたいことが彼らの中に蓄積されていて、その鬱憤をもう、ド・アンビエントで、マイブラみたいなノイズとは真逆に発散している印象を受けて、すごく衝撃でした。だから、逆にアンビとしては聴けないというか、ロックっぽいアルバムとして聴きました。もちろんアンビとしての美しさもあるので、そういう聴き方も全然ありですけど。で、シューゲイズ世代の方にはロックっぽいアルバムとして聴いても全然いけるんじゃないかなと。不思議な作品でした。ライヴでこれをどうやるか見てみたい、って凄く思いましたね」

Licaxxx 「2枚に分けたやり方が正しかったなと、すごく感じました。それぞれ全然違ったので、それをまとめる時に、こういうやり方は正解だなと。あと、きれいにまとまっているからどうやって聴こうかなと思った時、マスタリングがまりんさんだったことで納得したんですよ。なるほど、こうやってちゃんとエレクトロニックな部分を出してまとめたいんだな、と。だから、素直に美しいものとして聴く、エレクトロニックとして聴く、ということができました。二人が伸び伸び音楽をやっていて、世間の評価とかまじで気にしてなさそう(笑)。自分たちのために音楽を紡いでいる感じがします」

後藤「好きなことを好きなようにやる人たちの美しさ、っていうのはありますよね。この時代、それが大事な気がする。クライアントがいたり、人の要請から作品が生まれることを否定するつもりはないけれど、インディペンデントで活動する人たちの多くは自分のお金と時間を、生活のなかでどうにかやりくりして、作品を紡ぎ出す。そういう状況だと、好きなことしかやらないですよね」

三原「だからこそ、jan and naomiが聴きたい、この音楽が聴きたいって思う瞬間がありますね」

後藤「好きなことをやるから個性も強まるし、作品も良くなる。そういう領域を広げていきたいっていうのは、ミュージシャンたちの悩みでもありますよね、活動を続けるうえでの」

福岡「そうですね。消費されない音楽っていうか。こういう領域を広げていきたいですよね」

ヒダカ「そこで、替えが効かないものになるからね」

後藤「そうですよね。本当にそう」

福岡「私も、アンビエントでも何かが違うなと感じてたんですけど、さっきの日高さんの話で納得できたというか。やっぱりシューゲイズを感じたから、アンビエントの中のすごく鋭い、突出したものを…」

ヒダカ「ロックっぽい何かがね」

福岡「うん、ロックだから私に響いたのかもしれない(笑)。あと、アンビエントってバンドでやるのは難しいジャンルだと思うんですけど、彼らはバンドのパルスが全員フィットしています。いろんな方とやられているのに、すごくまとまっているのはnaomiさんのプロデュース力がはんぱないからだろうと思いました。YouTubeにライヴ映像が上がってたんですが、2人だけでやっていてもこの世界観が出ている。そういうところがロック/シューゲイズなのかな、魂の熱を感じましたね」

田中ヤコブ “おさきにどうぞ”

後藤「これはすごいです。ただ、宅録的な作品をどう評価するかというのは、サウンドのことばっかり気にしてる僕としては語るのが難しい(笑)。簡単に言うとローファイなので、音としては現代的ではないと思うんです。でも、めちゃめちゃ曲がいい。彼の家主っていうバンドもすごくいいんです。この作品も、ビートルズとかXTCとかはっぴいえんどみたいな、自分が聴いてきたいい音楽の流れを汲んで、アップデートしていて、すごく面白かった。で、ローファイを狙ったんじゃなく、コロナのために家で録ったらこうなった、という音にも聴ける。こういう作品に、ちゃんとした予算と期間と最高の環境という現場を用意できたら、どう生まれ変わるかに興味がありますね。もちろんこのままでも、2020年の素晴らしいドキュメントだと思う。だから、皆さんの意見を聞いてみたいです。ソングライティングの才能はズバ抜けていると、ミュージシャンとしては思う」

Licaxxx 「純粋にいいなと思ったんですけど、確かに制作の余地を与えたいという意味では、今回の中で一番かも。出来上がってるんだけど出来上がってない、というか。まだ全然やれそうな感じもするなあ」

後藤「中村一義さん的なカルチャーショックをメジャーシーンに与えそうなクオリティですよね。本人は、いや、僕はいくらお金をもらってもこの音が好きだ、ってことになるかもしれない。だから僕らも、音の良さや解像度の高さみたいなところにこだわっちゃうと、この作品を見誤るところがあると感じて」

Licaxxx 「うん、だからこそ東郷さんみたいな化け方というか、次のステージに行く可能性も見える」

--自分でプロデュースしてみたい、と思います?

Licaxxx 「確かに、私、多分シンガーソングライティング以外のことができるので、こういう人と組んでみたいなと思いますね」

後藤「全然想像つかない、Licaxxxプロデュースの田中ヤコブ!」

福岡「聴いてみたい!」

Licaxxx 「めちゃめちゃハマるか、嫌われるかのどっちかだろうな(笑)。いろんな人が引っかかるポイントを要所要所で作りたいから、曲はそのままに、楽器の質感を色々提案するとか。まあでも田中ヤコブ自体の良さは十二分にすでにあってそれはそのままにされるべきなので、ミックスと録りのすごく細かいところで何か引っかかるところを作るとかやるのかな…。まあでも私ができるのって、私は音楽にダイレクトに関わらないところでしょうね、作品の出し方とか。好きが故に勝手に言ってますけど(笑)」

後藤「僕は岡田拓郎くんみたいなスタジオワークができる人と一緒にやって、この楽曲の良さのままギターがよく録れているとか、ローエンドがふくよかだとか、そういう新しいサウンドデザインで聴いてみたい感じもします。本人が意図したサウンドかもしれないけど、でも、もっと開かれて、もっと聴かれて欲しいと思うきらめきがありますよね」

三原「私、めっちゃ好きです!音は確かに、今回のノミネート作品と並べて聴くとガシャっとした軽さがあるんですけど、整い過ぎていないことで、エモーションやライヴ感が詰まっている。ギターがめちゃくちゃいいです。最初から聴き始めて、二、三曲目ぐらいで完全にノックアウトされました。どの曲も、アウトロまで最高。各楽器が思いっきり歌っているところも良くて、フジロックとかでぐちゃぐちゃになりながら見たい〜、って思いました。そう思ったのは、曲がいいからだと思います。歌詞も、輪郭ははっきりしてないけど言いたいことが伝わる感じが好きでしたね。興奮しました」

ヒダカ「ビートルズやジェリー・フィッシュ的な、いい意味での箱庭ポップ感がすごくありますよね。それって僕やゴッチの時代でもずっとあった流れじゃないですか。中村一義くんもそうだったし、宅録で自分だけのポップ・ミュージックを作り、それが世に放たれていく感じ、というか。そこで、なんかね、彼の場合ははみ出ている感じがすごくしたんですよ。それが、音像のローファイ感や、なんでこのコードに行くんだろう、みたいな細かいところに出ている。ライヴでどう変わるかが見てみたいな。一義くんみたいにあまりライヴのことを考えずに宅録ワークにはまっていく人もいたりするんで、彼がどっちなのかなと。このはみ出ちゃった楽曲を人前で演奏した時に、何がはみ出ているのか見てみたい。今後がめちゃくちゃ楽しみですよね、はみ出さんばかりのポップへの愛を感じました」

福岡「私は、曲がめちゃくちゃいいというのが突出していたので、音の良し悪しは気になってなくて。他に良い意味で気になるところがありました。バンドとしてよくまとまっているなぁと思っていたら、ほとんど一人で演奏していることとか。その情報を知って、チャットモンチーに似てるなと思いました(笑)」

一同「おおー!」

福岡「だから、彼はお金をもらっても誰かに言われて何かはやらないという可能性を少し感じています。決められた自由の中でどれだけ跳ねられるかが好きなんだろうな、と。彼には『賞金をあげる』以外の言葉で、本人が必要としていることをサポートしてあげて欲しいと思いますね。自分たちはそうだったんですよ、一方的に『有名なプロデューサーつけたら?』とか言われたら、むっちゃ腹立ってた(笑)」

ヒダカ「(笑)スタジオの金額の規模とかじゃなくて」

福岡「そうそう、そういうのじゃねーんだよってなるから(笑)。そういう意味で本当に勝手なんですけどシンパシー感じました。ゴッチさんには、チャットの2人で話し合ってプロデュースお願いしたんですけど、正直現場でかなり困ったはず(笑)」

後藤「困ったと言うか、無茶苦茶だなと(笑)。でも、いちいち本人たちのやり方を通しながらやるのがいいなと思った。あと、すごくパンクな人たちだと。一方で、なめられたくないぜって言う空気を常々感じたから、と言う事は、なめられてきた歴史があるんだろうなと。チャットモンチーはかっこいいんだから、好きなことを好きなように、なんとも思わずやれる場所があるといいな、と当時思いました。音楽的にそれが良いエネルギーになるならいいけど、でも、感じなくていいストレスでもあるから」

福岡「うん、田中さんしかり、他の皆さんしかり、この賞で必要としているものをサポートできたらいいですよね、本当に。今ならわかります、私も。」

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