APPLE VINEGAR - Music Award - 2022

大賞選出

大賞選出

ノミネートの作品数も、審査員の人数も増え、さらに多様な意見の飛び交った長時間の選考会を経て、いよいよ大賞の選出へ。昨年まではそれぞれ3作品を選んで投票する形式でしたが、今年は一人2作品を選ぶことに決定。少し時間を置いて発表された、それぞれが選んだ2作品は?

ヒダカ「やっぱり自分はバンドマンなので、まずNo Buses。BREIMENとすごく迷ったんですけど、ベーシックなアレンジを使って新しいことをする良さを感じたので、今回はNo Busesにしました。あとは(sic)boyですね。これもバンドサウンドの新たな可能性というか、堂々とラウドなギターサウンドを聴かせながら新しいことをしてるなと思って」

三原「私はbutajiさんと……BREIMENでお願いします。みなさんに言えることですけど、この賞を受賞する意味を考えた上で、もう一段階広まってほしい人というか、『今この時期に受賞する意味』を考えて、この2組にしました」

有泉「私は網守さんとNTsKiです。網守さんはいろんなボーカリストやミュージシャンと一緒にやった作品も聴いてみたいなと思うんですけど、この賞を受賞することでまた別の角度の道が開けたら面白いなと思って。で、NTsKiの作品は、こういうボーダーレスな、コスモポリタンな感覚を持った人が表現するこの先をもっと見てみたい。あと、これはちょっと余談的になるかもですが、こういう音楽にスポットライトを当てる機会って今の日本だとまだまだ少ないと思うので、ここで評価しておくことが大事なんじゃないかなと思ってこの2作を選びました」

福岡「めちゃくちゃ難しいですけど……私は去年のAPPLE VINEGARでは3タイトル全部ヒップホップを選ばせてもらっていて、それだけ勢いがすごかったってことだと思うんですけど、今年はバンドを応援したい気持ちがあって、まずNOT WONKと、あともうひとつはBREIMENですかね。本当に全部素晴らしくて、めちゃめちゃ迷いました」

Licaxxx「SPARTAとNTsKiです。やっぱりこの先の広がりが見てみたいという点で選んでいて、SPARTAもNTsKiもまだまだ行けそうというか、いろんなことをやってほしいと思って選びました」

後藤「めちゃくちゃ迷うなあ……でもこの人は外せないと思ったのはbutajiさん。この賞をきっかけに広がってほしいと思うので、まず濃いめにbutajiさんに一票で。2組目がめちゃめちゃ迷うけど……僕は家主を推します。家主とNTsKiとNOT WONKで迷ったんですけど、インディロック/フォークの希望という意味で、家主をリストに加えてもいいんじゃないかと思いました」

投票はかなり割れて、NTsKi、BREIMEN、butajiが2票で並ぶという結果に。

後藤「このなかから話し合って大賞を決めるのがよさそうですね。みなさん、どうですか? この3組のなかだったら」

ヒダカ「BREIMENですかね。自分もBREIMENを推したかったので」

Licaxxx「私はbutajiさん」

三原「私はbutajiさんとBREIMENに入れたんですけど、butajiさんに濃いめに一票を入れたので、butajiさん」

後藤「僕もbutajiさんですね」

福岡「私はBREIMEN」

有泉「ものすごく難しいけど……BREIMENとbutajiさんで選ぶのであれば、butajiさんですかね。作品の優劣というよりも、BREIMENはすでに回路が広がってて、リスナーに届きやすくなってきてると思うので。出会う機会が広がってほしいという意味ではbutajiさんかなと」

後藤「butajiさんの楽曲にはタフな時代を包み込むような抱擁力がありますよね。歌としての優しさ、しなやかさみたいな。それをすごく感じたな。じゃあ、大賞はbutajiさんに決定ですね。BREIMENとNTsKiにも特別賞を贈りましょうか」

ヒダカ「それでいいと思います」

後藤「決まりましたね。でも本当に全部よかったんだよなあ。アルバム制作や予算の規模、活動のインディペンデント性なんかを考えると、家主にもお金を渡したくなっちゃうっていうか(笑)」

ヒダカ「『家主』と言いつつ莫大な予算はないでしょうからね(笑)。家主にも賞を贈ってもいいんじゃないですか?」

というわけで、今年集まった賞金135万円から、大賞のbutajiには90万円、特別賞のBREIMEN、NTsKi、家主には 15万円ずつ渡すことになりました。

大賞

butaji
“RIGHT TIME”

特別賞

BREIMEN
“Play time isn’t over”

NTsKi
“Orca”

家主
“DOOM”

総評

ヒダカ「ここ数年のAPPLE VINEGARは『脱ロック』がひとつのポイントだったと思うんです。手垢のついたロック的な考え方とか、ティピカルなサウンドみたいなものからどういう風に逸脱して、新しい価値観を提示していくのか。それはゴッチのムードもそうだったと思うし、全国のミュージックラバーの皆さんの温度感もそうだったと思うんですけど、今年はちょっとロックが戻ってきた空気を感じて、それはバンドマンとして嬉しかったですし、各自がロック的なものをより新しく解釈した素晴らしい作品が多くて、聴き応えもたっぷりでした。もはやギター・ベース・ドラムだけがロックじゃない、それをすごく象徴する作品がたくさんあったと思うので、既存のロック好きだけじゃないリスナーさんにも届くといいなと思いましたし、その逆もしかりで、ロック以外の音楽を聴く人がロックに辿り着くような、その道標になる作品がたくさんあったと思うので、そこも楽しんでいただけたらと思います」

三原「今年もどの作品もそれぞれに素晴らしくて、バラバラな審査員のみなさんと様々な視点で語り合えることがとても楽しかったです。今年は今までで一番ノミネート作品が多様だったなと思います。そんな中でサウンドプロダクションとか音の良さはもちろんなんですけど、私個人的には結構、今の時代に何をどう歌うか、鳴らすかっていうところに興味がありましたね。あとはこういう本来比べられないものに最後に票を入れるためには、自分が広い視点を持って、音楽以外のこと、社会や世界についても日々考えることが重要だなと、今回特に感じてました。私は音楽家ではないですが大いにインスパイアされる作品ばかりだったので、自分の表現、アウトプットを丁寧にやっていこうと思いました。ありがとうございました 」

有泉「日本の音楽が面白いなっていうのは、近年ずっと思っていて。どのジャンルにおいても面白いアーティストがたくさん出てきている印象があるので、そういう、今の日本のオルタナティヴなシーンの多面的な面白さが如実に表れた12作品の選出だったなと思いました。その分、選ぶのはすごく難しかったんですけど(笑)。あとは、全部が別個に独立して存在しているというよりも、緩やかに繋がっている、この感じもすごく面白いと思っていて。いろんなミュージシャンがそれぞれに創意工夫しつつ、マインドの部分も含めて互いに刺激し合っていて、それによって全体が底上げされている感覚がある。サウスロンドンの音楽シーンの面白さって近年よく言われますけど、日本も負けないくらい面白いと思うし、その証左みたいな今回のラインナップだったから。そういう意味でも審査に参加させていただけてすごく楽しかったです」

福岡「サブスクが主体になり始めてから特に、『音楽で食っていく』みたいなことがなかなか現実的ではなくて、ミュージシャンになりたいと言える環境がどんどん減っていくなか、さらにコロナという時代に入ってしまって。それによって、音楽をやること自体に腰が重くなってしまっている現状のなか、こういう12作品を聴くと、やっぱり全然死んでないというか、こういう中だからこそできる作品があるっていうことに、めちゃくちゃ救いがあると思ったし、私自身すごく勇気をもらったので、今年のAPPLE VINEGARもすごく意義があったと思います。本当にどの作品も素晴らしかったので、今年も出会えたことにすごく感謝しています。ありがとうございました」

Licaxxx「もちろんそれぞれの苦労があったとは思うんですけど、外にはみ出し切れない閉塞感みたいなものはなくなった気がして、より音楽がジャンル的にも精神的にも壁を乗り越えて、それぞれが自由に作ってる、その感じが表面に出てきたのが2021年の作品だったのかなと思って。それはすごく希望があるというか、音楽には意味があると思ったのと、あとやっぱりここ数年、『会社からデビューして』とかではない、個人の繋がりとか、クルーの垣根を超えた繋がりから音楽が生まれていて、そういうコミュニティが見えるのが面白いなって。遊んでいて仲良くなって作った曲がサブスクでめちゃくちゃ聞かれているとか、純粋にたくさん聞いてもらえるという夢があると思います。昔だったらクルーとクルーがコラボするとかありえなかったのに、今はジャンルも越えてフィーチャリングしたりしてるのが当たり前で、サウンド自体もどんどんどん混ざってるのがすごく面白くて。2022年もサウンドからカルチャーまで、ミクスチャー感がいい感じに出てくるのではないでしょうか」

後藤「長い時間付き合っていただいて、本当にみなさんありがとうございました。そもそも音楽の話を仲間とするのって楽しいなと思いました(笑)。まあでも、有泉さんも言ってましたけど、日本の音楽は本当に面白いと思うんですよ。俺はどっちかっていうと洋楽ばっかり聴いてきた時間が長いけど、ここ何年かは日本の音楽の方がはっきり面白いと感じる作品が多いし、バラエティに富んでいて、形に捉われない人がたくさんいて、今年も聴いていて楽しかったです。もちろん、音楽活動をする厳しさを本当に味わった2年でもあるし、心がへし折られるような瞬間がそれぞれにあったと思うんです。それはバンドもそうだし、LicaxxxたちDJの現場だって、いっぱい現場が飛んだと思うし。でもこうやって素晴らしい作品が世に出続けているのは嬉しいことだし、音楽ってどうあれ止まらないんだなって、勇気をもらいました。<中年>という言葉がbutajiくんの歌詞に出てくるって話もありましたけど、自分たちが歩いてきた道を振り返って、ちゃんとそこを舗装するくらいの努力はしなきゃいけないと思うので、若い人たちがやりやすい空気をAPPLE VINEGARによって作れたらなって、本当にその一心なんですよね。みんながもっと自由に音楽を作って、それを面白がる人が増えるように、毎年一石を投じられたらいいなと思います。ありがとうございました」