——BIMくんのことを「恥じらいがある」と言っていましたが、自分も『Boston Bag』は「シーン全体を変えてやる」みたいな、そういう作品では無いと思うんですよ。個人的なことを達成したアルバムで。でもそういう作品がアワードを受賞するのは凄く意義があることだなと思って。
Gotch 確かにそうですね。でも、APPLE VINEGARは「作品賞」なんですよね。いわゆる新人賞とかもそうだと思うし、ジャンルの特性上ヒップホップは人にフォーカスされることが多いと思うんですよね。「凄いラッパーが出てきた」ってことに対する賞はあるし、そういう見られ方をする。音楽のことまでを俯瞰して聴いてもらえる場所は、あるかもしれないけど、そんなに広くないように感じます。トラックメイカーにスポットが当たったりするのも、一般的な場所ではなかなかないと思うので。そういう意味では、この賞が少しのブリッジになれたらっていう気持ちがある。BIMくんに贈ってるんですけど、「この作品」に対する賞なんですよ。
BIM 「『Boston Bag』くん」の栄誉。
Gotch そういう評価は大事かなと思うし。あとキャリア的にも、一番語って貰い辛くなるのは中堅に入ったぐらいだと思うので。新人って出てきたことそのものを話題にしてもらえる。 新しい人の方が話題にしやすいから、業界的な病だと思うんですけど。でも、その後は割と放置されるっていうことがあるじゃないですか。キャリアを代表するような作品が出来たときに、それを評価するシステムがない。BIMくんがレコード大賞に呼ばれるかと言えば呼ばれないし。僕らも呼ばれないですけど（笑）。例えば、お茶の間よりは僕らに近いスペシャのアワードでも、作品というよりは人や活動にフォーカスしてると感じます。そういう意味では、アルバムにフォーカスした賞でありたいと思いますね。アルバムを作ったことに対する賞賛というか、サウンドデザインやミュージシャンシップも含めた熱意や技術に。
BIM 助かります。
Gotch いやいや（笑）。そういうことがしたいっていう。
——自分もヒップホップ中心のメディアをやってるので責任の一端は担ってると思うんですけど、ヒップホップって特にゲーム性が強くて、やっぱり新しいものが賞賛されたりするし消費のスピードも早いアメリカらしいカルチャーだと思うので。そういう意味では中堅にいるってことは本人的にはどうですか？
BIM 「中堅」。そうですね。19から始めて、今年で9年で、来年は10年で。中堅ですね、そりゃ。凄い嫌ですね（笑）。
Gotch 形容しづらいんですよね。「新人」が終わった後に、自分から「中堅です」って言うのも嫌だし。
BIM でもそれこそ、PUNPEEくんはまだ自分のことを中堅ぐらいじゃないかな？って言ってたんですよ。俺は「もう御所っすよ。あなた中堅なら俺はまだ若手になっちゃうから」って言ってるんですけど。
Gotch PUNPEEくんは星野源と共演したわけだから、御所感ありますよね。
BIM 俺らからしたらさんまさんみたいなもんでしょ。全然どいてくれない御所って感じ（笑）。kZmとか俺はもう中堅ですね。VaVaくんも。
Gotch でも、その並びはまだ全然フレッシュに写ってますけどね。ヒップホップの界隈的にどう捉えられてるか分からないですけど。
——BIMくんと同世代のラッパーにインタビューしたら「自分は中堅だから」っていう自意識が凄くあったんですよね。
BIM やっべ、俺全然無いですね。まだLEXくんとかと同い年の気持ちで生きてます（笑）。「イェイイェイ、ライブ頑張ってくるね！」みたいな（笑）。
Gotch それはいいことですね。
BIM 後1、2年は若手でいたですね。ずっと同じメンツでいて、同じメンツで年取って行ってるから。後はレーベルもあるかな。
——確かに、SUMMITは年上の人が多いですよね。
BIM そうなんですよ、年上が多いので。甘えさせて頂いてますね。
Gotch 面白いですね。震災の後とかにギター一本で弾き語りとか行って思ったのが、俺たちが思ってる以上に世の中に音楽なんて届いてないなっていう。「お兄ちゃん紅白とか出たことあるの？」みたいに言われて、一番有名な曲を頑張って歌っても誰も知らなくて。そういう世間との乖離があるから、普通にずっとフレッシュな顔してやっても良いような気がする。自分の狭い村とかにいるとずっとやってるような気になっちゃうけど、案外届いてもいないし、知らない人いっぱいいるって気持ちは大事かなと思って。俺は全然新しい感じがしますけどね。
BIM 誤魔化し誤魔化しで、ずっとフレッシュでいれれば（笑）。
Gotch 新しい世代が出てきても、BIMくんは同じ気持ちで（笑）。
BIM 「イェイ、イェイ！」って（笑）。
Gotch いい感覚ですよね。
BIM でもGotchさんに賞を頂く人生とは思っていなかったですね。
——華々しく出てきた感じもありつつ、やっぱりヒップホップにそもそもアワードが無いってこともありますけど、実は賞レース的なところとは無縁でしたよね。
Gotch 難しいところですよね、評価する方法って。でも、ずっと面白いものを作り続けて欲しいなと思いますけどね。誰のことも構わないでやれるなら、それは素晴らしいことだと思うし。もっとスケベな気持ちになってもいいと思うし、「天下取りたい」って思うのもいいと思うし。自由に、BIMくんらしくカッコいい音楽を作ってくれたら、聴いてる側としては一番楽しみだなと思いますね。リスナーもみんなそうなんじゃないかな。
BIM SNSとかで褒めていただくのはエゴサで見る機会ありますけど、ちゃんとした形で言ってもらえると「頑張ろう」とも思いますね。小学6年生の時の空手の試合ぶりの賞ですね。16年ぶり。
Gotch 僕も賞貰ったことないです。「年間ベスト」みたいなやつ見ちゃうじゃないですか。あんなの一位になったことが一度も無いから、「一位になってみてぇな」とか思ったりしますけどね。
——今後やってみたいことというか、バンドでライブをやって制作にフィードバックすることも考えたりしますか？
BIM でも、今まで通りと言ったらアレですけど、『Boston Bag』でやっていないことを次の作品ではやりたいと思うし。そうなると、そういうのも入ってくるかもしれないですね。楽器も弾いてみたいと思うし、カッコいいなと思うので。そういう技術的な面で言うと、今回マイクを良いものに変えたので、そういうところで進化していけたらなと思います。
Gotch 何のマイク買ったんですか？
BIM NEUMANNとか色んなマイクが試せるトランセンドのマイクを買いました。
Gotch プラグインでタイプ選べるやつですね。良いですよね、キャラが選べるから。現代的な選び方で。
BIM 人気で半年待ちでした。やっと届いて。音良かったですね。お気に入りのがあったら本物買おうかなって。
Gotch 色んな音楽をやってるところを見てみたいですね。
BIM 細々と新しいものを作ってるので、出たら是非聴いてください。
Gotch BIMバンドも見てみたい。
BIM 結構みんなにサポートされてます、何も分からないんで。「もっと青い感じがいいです！」とか。
Gotch 昔のミュージシャンっぽくて良いじゃないですか。
BIM 「赤色の感じのベースってあります？」とか（笑）。
Gotch 昔、佐野元春さんがミックスの時に「もう少しグリーンに」とか言ってたりしたみたいですよ。伝聞ですが。
BIM じゃあ、そういうのも無しじゃないですかね（笑）。結構真面目に言ってたのに笑いが起こったから、「あ、これダメなんだな」と思って。
Gotch 良いと思いますよ。その感覚は凄く大事というか。すごい面白い。話してて面白いと思った。
BIM ありがとうございます。
※先日放送されたBIMさんがゲストのラジオ「INNOVATION WORLD ERA」がPodcastで聞くことができます。
SPINEAR：https://spinear.com/shows/innovation-world-era/episodes/life-update-2021-04-11/
Spotify：https://open.spotify.com/episode/2fyc9HWTKJfjXD80xzffHz?si=dc46apGKR6Sy5GN65U2sVw
