APPLE VINEGAR - Music Award - 2026

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  • 眞名子 新
  • 後藤 正文

『APPLE VINEGAR -Music Award-』第9回となる2026年の大賞は、眞名子 新『野原では海の話を』が受賞。これを記念し、受賞者の眞名子 新、そしてアワード主宰の後藤 正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)を交えての座談会が実現した。

インタビュアー:小熊 俊哉
 写真:山川 哲矢

まずは眞名子さん、受賞の感想をお聞かせください。

眞名子自分は兄(motoki manako)、マネージャー(谷朋彦:ドラムも担当)との3人でチームとして活動しているんですけど、マネージャーから「大賞だよ」というのをポロッと聞いた瞬間、もう3人タコ踊りをして(笑)。本当に嬉しかったです。自分がこれまでやってきたことを初めて認められたような瞬間で感慨深かったですね。

後藤さんから見て、今回大賞を受賞されたアルバム『野原では海の話を』のどういった点が良かったか、改めてお願いできますか。

後藤まずはやっぱり「歌が良かった」っていうのが一番にあります。でもそれだけじゃなくて、街中とかで聴いてもパッと耳に飛び込んでくるような、突き抜けてくる強さを感じました。実際に僕も、普通に生活しながら「あ、この人は凄いな」って自然に名前を知ったんですよ。ふとラジオで聴いたり、どこかで名前を見かけたり。よく覚えているのがTAGO STUDIO(群馬県高崎市にあるレコーディング・スタジオ)に行ったときのことで、壁に「眞名子 新」と書いてあって。

眞名子書きました(笑)。ミックス作業をする、あの入り口のところですよね。

後藤そうそう、結構どデカく書いてあって(笑)。「あ、眞名子さんはここで録ってるんだ」と。TAGO STUDIOは良い機材が揃っているけどリーズナブルなスタジオで、これから駆け出していくアーティストたちがよく使う場所なんです。

眞名子そこで知ってくださったんですね。

後藤で、実際に音楽を聴いてみて、「これは凄いな」と思ったんです。ただ、いわゆるオーセンティックなカントリーミュージックって、日本だとそこまで市民権がないじゃないですか。僕の場合は、Turntable Filmsの井上陽介くんとか、身近にそういう音楽が好きな友達がいるんですけど、「こういう音楽が好きな人って、日本に5000人くらいしかいないよね」なんて話をよくしていて。「どうやって広げたらいいんだろう」って。だからこそ、眞名子くんのアルバムを聴いて感激しました。物凄い可能性に満ちているなと。

眞名子めっちゃ嬉しいです。

眞名子 新
眞名子 新

後藤さんは選考会の際に、「俺もザ・ルミニアーズみたいな音楽をやってみたかったけど、日本語じゃできないんだよなとか思ってたら、『やってるじゃん!』みたいな」とコメントしてました。

後藤そうなんですよ。ルミニアーズが以前フジロックに出演した時、強引に話しかけに行ったりして。「めちゃくちゃ好きなんだけど!」って。そのあと、僕がソロか何かで出た時に、彼らのサポートメンバーたちが観に来てくれて。「お前らもいいじゃん」みたいな感じで声をかけてくれたりしてね。そんな思い出もあって、今も本当に好きなんです。ただ、ああいう音楽っていまいち日本で盛り上がらないというか……。

そうなんですよね。

後藤僕は昔からウィルコが大好きで、1996年くらいに好きになったんですけど、全然来日してくれなくて。「MAGIC ROCK OUT」っていうオールナイトのフェスに来てくれたんだけど(2003年)、そこから長らく日本に来なくて、「いつになったら見れるんだ!」みたいな。そんなふうに、カントリーやフォークのルーツがあったりすると、なかなか日本では響きづらい。そこにずっと悔しさを感じてきたからこそ、眞名子くんのような新星が出てきたのが嬉しくて。そういう喜びもありましたし、あとは純粋に「歌がいいな」と思いました。

眞名子ありがとうございます。

後藤どうしてそう感じるのか、言語化するのは難しいですけどね。「なんかいいな」って思わせる、パーソナルなパワーみたいなものがある。

同じ歌い手として、眞名子さんの歌に対してどんな印象を抱いてますか?

後藤「まっすぐだな」と思います。あんまり屈託がないように聴こえるんですよね。表情豊かなんだけど、そこに変な「照れ」みたいなものを感じないというか……新しい曲の歌詞とかもそうですよね。

後藤 正文
後藤 正文

「弾き語りの男」ですね。

後藤世間に対する批評性がしっかりあるじゃないですか。「今はこういう音楽が流行っているけど、そのなかで自分は恥ずかしくない歌を歌うんだ」という。その結論に至るまでの過程で、今の社会や音楽シーンをちゃんと批評している。ともすると、そこはもう少し屈託が出るというか、シニカルな気持ちが乗ったりしがちな部分なんです。僕だったら、たぶんシニカルさが勝っちゃうんですよ(笑)。でも、眞名子くんの場合は、最後に「恥ずかしくない歌を歌う」というまっすぐな気持ちに、最初から想いが乗っているように聞こえるんです。それはやっぱり、人としてのあり方も、声そのものもまっすぐだからできることなんじゃないかなって。言葉にフックはあるけど、ネガティブな引っかかりを感じさせず、スッと結論のところまで聴かせることができる。新曲はそこが凄く印象的でした。

選考会でも「歌」への賛辞が絶えなかったですよね。眞名子さんは歌ううえで、どんなことを大切にしているのでしょう?

眞名子「そのまま歌う」というか、まっすぐ歌うことを意識しています。歌は技術的なところが評価されやすかったりするじゃないですか。ビブラート、しゃくり、こぶしとか。自分としては、歌を伝えるうえで、そこまで必要ないのかなと思っていて。「その曲をどうまっすぐ伝えるか」というところに強くこだわっているので、無駄なものをすべて省いて歌いたいな、というのを心がけています。

アルバムの1曲目「さいなら」を聴くと、みんな驚かされると思うんです。フォーキーな繊細さと共に、ポジティブな雄大さ、目の前に自然が広がるようなスケール感もある。その歌唱スタイルに、どうやってたどり着いたんですか?

眞名子もともとはフォークミュージックをやっていて、ハナレグミさんとかに凄く影響を受けていて。大学から音楽を始めて、いわゆる弾き語りをずっとやってきたんです。一度そこから音楽を離れた時期もあったんですけど、コロナ禍の頃にルミニアーズやマムフォード&サンズのようなカントリーミュージック、アメリカーナと呼ばれる音楽に出会って。

そこが転機になったと。

眞名子 新、後藤 正文
眞名子 新、後藤 正文

眞名子大学の4年間は、どちらかというと「家に引きこもって音楽をやる」スタイルだったんですけど、カントリーと出会った時に「アコギを使って、こんなに平和な音楽を表現できるんだ!」って感動したんです。ライブ映像とかで、お客さんと一体となって楽しむ風景を観て、自分もそういう音楽をやりたくなって。そこから今のスタイルに繋がっているように思います。

眞名子さんは2023年、米オースティンのAustin City Limits Music Festivalで「一体感のあるライブ」を実際に体感されたそうですね。

眞名子初めて生でルミニアーズやマムフォード&サンズ、あとはノア・カーンも観たんですけど、本当に凄かったです。お客さんもめっちゃ歌っていて。いい文化だなと思いました。

『野原では海の話を』にも、そういったアーティストの影響が色濃く出ている部分がありますよね。

眞名子 あります。たとえば「台風」という曲で、「ホー!」って掛け声を入れたのは、カントリーの定番というか。

ルミニアーズの「Ho Hey」もそうですよね。

眞名子そうそう。ちょっとした遊び心で入れてみました。

眞名子 新
眞名子 新