APPLE VINEGAR - Music Award - 2020

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文:妹沢奈美 撮影:山川哲矢

NOT WONK “Down the Valley”

後藤「ここにきて何らかのブレイクスルーがあったんじゃないかという作品ですね。曲も録音もいい。活動も含めてインディー・ロックの希望みたいなバンドですよね。きっちりスタジオに入っていい音でバンドの演奏を録るっていうオーセンティックで正統派なやり方が流行ってないなかでも、それを誠実にやった作品ですね」

日高「苫小牧在住ですからね」

後藤「ヴォーカルの加藤君だけ(東京に)出てきたって話を聞きました。でも、基本は苫小牧発信で」
※ 現在も苫小牧在住にて活動されております。お詫びして、訂正いたします。

三原「一人だけ出て来るって、やりにくくないのかな」

後藤「多分、バンドの歩みを進めるためじゃないですかね。基本的にDIYの精神が貫かれているっていうのは、日高さんとかの世代にも繋がるパンクスピリットがありますよね」

日高「エイベックスがこれを出すってすごいよ。Max松浦さんは聴いてるのかな」

後藤「どうなんでしょうね。多分、良いスタッフがいるんだと思います。エンジニアの柏井日向さんに直接聞いたんですけれど、本当にNOT WONKが好きで、自分から仕事をさせてほしいとアプローチしたって言ってました」

日高「なるほどね。そういった愛情がないと、これをメジャーで流通させるって今の日本じゃ難しいことだから。いい話だ。苫小牧のフェスで毎年一緒だったんですよ。ローカルの手作りフェスだからリハがないので、セッティング中にちょっと音出しをするんですけど、それがジェフ・バックリーがカバーしたヴァージョンの、レナード・コーエンの”ハレルヤ”なんですよ。そこから始めるのが、クッソおしゃれで…すげえ羨ましいと思った」

一同「(爆笑)」

日高「(笑)だって、20代にジェフ・バックリーとかやられたら、おじさんはキュンとするから。AAAMYYYちゃんと一緒で、あまりおじさんが褒めるとおじさんしか寄ってこなくなるから、言わないようにしてるんです。でも、めちゃめちゃジェラってますいつも」

後藤「そうなんですね(笑)」

日高「何を流しているかの説明もなく、分かる人が分かってくれると嬉しいし、気になった人は聞いてくれれば教えるから、っていうスタンス...そういう、音で説明します感がとても心強くて。アッコも好きでしょ?」

福岡「好きですね。まだ観たことないんですけど、絶対にライヴがいいだろうなって。3ピースの音にこだわっている感じに、親近感が湧きました(笑)。レコーディングの音が整頓されすぎてなくて、それもとてもいいなと。バンドで一緒にやれているのもそのままだったり、全体的に懐かしい感じがありました」

Licaxxx「私は、聴くたびに表情が変わるのが、面白いなと。ライヴはまだ拝見したことがないんですけど、通して聴くのと、一曲ずつ聴くのとで違うのがよくて。『今日はシューゲイザーに聴こえるな』とか」

後藤「確かに。ソウルっぽく聴こえる時もあったり」

Licaxxx「うんうん。新しく感じる人と、懐かしく感じる人がいるのも、このバンドの特徴なのかな」

後藤「英語で歌い続けるのか、どうするのかと思うところもありますね。英語だったら、もう日本から外に開いていったほうがいいとも思うし。これから日本のミュージシャンはアジア圏での活動も視野に入ってくると思うから、NOT WONKはこのまま海外へ向かうのもいいんじゃないかなって」

日高「うん、行くのは全然ありですよね。そっちの方が受けそうな気も、するっちゃする」

三原「私もすごく好きでした。全感覚祭でライヴを観たのが初めてで、その時はもっと、この音源の印象よりも激しくて。むちゃくちゃエモくてカッコよかった。このアルバムは一曲の中に緩急があって、引き算がすごく上手いというか。だから爆発するところで、より爆発する感じがして。気持ちよかったし、誰にも似てないなと思いました」

後藤「確かにライヴで見たら、シューゲイザーっぽいノイズが音源よりさらに増してますね。声のビブラートの谷がもっと深い」

日高「轟音出しますしね」

後藤「あんな歌い方の人、見たことないなって思います」

東郷清丸 “Q曲”

後藤「一昨年のアルバムは50曲くらい入っていたんですが、今回は9曲で。『Q曲』ですし、いろいろ意味があるんでしょうね。すごく良かった。50曲のとっちらかった何かのまま、ちょうどよくおさまらずに、そのままアップデートしてここにいる。サウンド的には全然、ビリー・アイリッシュみたいなところへの目配せとか、サブベースを足して、みたいなこともなくて。ナチュラルにバンドで録って、正直にミックスしましたっていう感じなんですけど、ずっと聴いているとやっぱり音がすごくいい。普通にバンドで演奏したらこういう音だよねっていう、嘘をついていないサウンド・デザインです(笑)。演奏しているメンバーも素晴らしい」

Licaxxx「うん、すごい。本当、ライヴ盤のめっちゃ綺麗に録ったやつ、的です。最近のバンドって、CD音源とライヴが違うのが面白かったりもするんですけど、でも、その反面、CDを聴いただけじゃ良さがわかんなかった、みたいなのも多くて。でもこれ、音源聴いただけで『超いい!』っていう印象がすごくあった。純粋に、CDを聴いてライヴに行きたくなる、みたいな。人となりというか、このバンドの音楽以外の要素のことを何も知らなくても、純粋に観に行きたくなった1枚でした」

三原「私は、これが家で一番よく聴いた1枚でした。聴いてて心地よくて、生活に馴染む…んですけど、ライヴを観たらすごくフィジカルが強かった。音源で惚れて、ライヴで惚れ直した感じなんですよ。歌も上手いですし、すごく堂々としていて本人の自信が伝わってくる。あと、ドラムと二人のセットだったんですが、リズムがものすごく複雑なのにグルーヴが半端なく太くて。最初はおとなしかった会場も、最後はウォーっと、全部お客さんを持っていく感じでした。アルバム一曲一曲も、曲ごとに違う風景とか季節とか人が浮かぶ感じで、音のイメージから歌詞を作る人なのかなあと想像してました」

福岡「前にノミネートされた時から、東郷さんよく聴いてるんです。今回のアルバムも曲が全部良かった。あとゴッチさんが言ったみたいに、ちゃんとしっかり録ってるし、今回ノミネートされた顔ぶれは生楽器、特にリズム隊の生楽器が少なめだったので、生音をちゃんと録ってるのを聴くとやっぱり生音いいなって改めて感じました。エンジニアの葛西(敏彦)さんが、スカートやD.A.N.とかを録っている方で、この方の録音もとてもいいんだなと。なんていうか自分がよく知っている音像ということで、安心感もありました」

日高「個人的な話なんですけど、俺も30年前くらいはデモテープを家で録ったり、街のリハスタとかで、数万円払えばやってくれる謎の音楽おじさんみたいな人に頼んで録音してて。リリース手段が当時はカセットしかなくて、限られた予算で作ってライヴで売る、みたいなことをやってたんですけど、それを令和2年の今やったらこうなる気がした。もちろんその頃よりはちゃんとしてるけど、いい意味で、ライヴで手売りしたくて作ってる感があるというか。なんつったらいいか、まずジャケからしてそうじゃないですか、このデモテープ感。整った製品では出せないユーモアというか。きっとデジタルで聴かれることも想定しての、あえてのジャケットだと思うんですよね」

後藤「僕はサイトで注文して買いました。ティッシュと一緒に送られてきた(笑)」

日高「(笑)俺たちが高校生や大学生の時に、おまけでシールやノベルティを作りました、みたいな。あの手触りを残しながらやっているっていう意味では、学生バンドがデモテープをちゃんと作って売る、みたいな延長にある気がすごくする。もちろん良い意味で。で、昔だったらそれが、レーベルをやるとか、”Under Flower Night!”みたいなDIYなイベントになるけど、それが今は盤とかデジタルでやれる。あの頃より、自分の思っているポップさを提示しやすいよね。多分彼は、これが一番ポップな表現だと思ってやってるだろうし。今、10代や20代だったら十分新しいものに思えるから、そういう意味で、ジャケで引いている人は聴かず嫌いをしないで、聴いて欲しいなとすごく思う。バンド・サウンドでやりたいのも、好感が持てるし。今はデジタルで発信できる時代だから、これだけ整えた形でそれをやれてるのが、すごく羨ましい。見くびっちゃいけないね」

後藤「顔の部分をCDにしてたりとか、CDにこだわった作品なんじゃないですかね」

日高「そう、Dos Monosとはベクトルは違うかもしれないけど、言いたいことが溢れてる感じもするね」

Licaxxx「(CDを手にして)いいですよね。びっちりとタイポが溢れている感じがめちゃめちゃいい。アートブックみたいなテンションで」

後藤「ミュージシャンの人選を見てるとcero周りの顔ぶれが配置されていて、東京インディーの流れを組んでいる。この10年で積み上がった東京のミュージシャンのつながりの中から生まれている作品だっていうのは、並んでいるメンバーを見るとわかりますね」

Licaxxx「私もスカートとかVIDEOTAPEMUSICとかすごい好きだから、その流れでこれを聴くと、すごく『好き!』って感じです」

長谷川白紙 “エアにに”

後藤「これはもう、やっぱりユニークだなあと。この情報量、すごいですよね。こんなにビートも詰まる?ってくらい(笑)。ミックスもめちゃくちゃ難しいと思うんですよ。ローを出したくても、こんなにキックがあったら繋がっちゃうし(笑)。でも、音はちゃんとしてる。とても面白いです」

三原「これもillicit tsuboiさんがやってるんですね」

後藤「tsuboiさんや、あとzAkさんもクレジットされててびっくりしました。さっき話に出た葛西さんは、zAkさんの系譜から出てきた人ですよね。今回のノミネートでもマスタリングは葛西さんのスタジオでやってる作品があったりして、葛西さんはずっとインディー・ロックのキーマンみたいな立ち位置にいる。tsuboiさんもそうですけれど、この二人の名前はよく見かけますね。あと奥田泰次さん。中村佳穂さんとかも、奥田さんですよね。尖ってる人たちは、誰が尖っているのかをちゃんと探して、この人と仕事しようっていう風に、ちゃんと考えてるってことですよね。才能ある人同士が集まる。この作品も、ドラムに石若駿っていう若手ナンバーワンのドラマーが参加してたり」

福岡「いやもう、やっぱり相変わらずすごいなあって。前作より若干ポップになっている気がしました。こんな私でも、わかるというか(笑)。だんだんリスナーの方に近づいてきてくれている気がして、ミュージック・ビデオも前みたいな怖い印象じゃなくて、見やすいアニメーションになってたり。あとインタビューで彼が、“私ではない私にアクセスするための一個の手段として音楽をやってる” と言ってたので、普段はどんな人なんだろうと(笑)。音楽って、私の時代には自分のアイデンティティを表現する人が多かったと思うんですよ。言葉にできないから音楽で、っていう。だけどそうじゃなく、自分でもないものを表現したい、何者でもありたいって人は初めて見た。それがこの形なんだとしたら、この人はどこまで行ってしまうんだろうと思いました。やっぱり、すごい才能です」

Licaxxx「あれですよね、すごくシャイでインターネットから出てきた人、っていう印象が私にはあります。聴き心地からも、ヘッドフォンで自分の中だけでまず音楽を作り始めたんだろうっていう感じも、ちゃんと見受けられるというか。彼がインターネットレーベルから曲を出している時に知ってたので、楽曲がこうやってだんだん広く受け入れられていくのは、すごくいいなと思います」

日高「俺、レコ発のDOMUNNEを観たんです。彼、顔出しNGなんですよね。顔出しNGの先輩としては…」

一同「(爆笑)」

日高「(笑)一番カッコ良くやってるなー、と。フリー・ジャズ的なこともやるけど、でもちゃんとロック。バンドマンは、それを合体できなかったんですよね。やろうとするとソフト・マシーンとかキャプテン・ビーフハートとかみたいに難しくなっちゃってたのが、これだけポップに聴かせられるのは羨ましい。インプロ・フリージャズ的なことも好きだろうし、今時のアニソンも聴ける人で。彼がアニソン好きかどうかは知らないですけど、今っぽさと、はるか昔のプログレッシヴ感…異次元的な苛立ちを、ちゃんと表現できているというか。俺、長谷川くんっていい意味で、二次元に対して歌ってる感じがすごくあるんですよ、顔出ししていないのも含めて。だからアニソン好きや声優さん好きに聴いて欲しいってすごく思うんです。そういう人たちはロック・ファンでもダンス・ミュージック好きでもないから、長谷川くんの音源を叩きつけたい、みたいな...本人も、そういう狙いがほんのりありそうで面白い。そういう話をしてみたいです。レコ発をDOMMUNEでやるのもいいですよね。ニコ生の走りみたいなものですからね」

三原「最初は、ちょっとびっくりしました。でもすごいですよね、圧倒的にオリジナル。1stアルバムは情報量が多すぎてカオスでちょっと構えてしまったところもあったんですけど、この2枚目の方が個人的に好きですね。聴くほどに、歌がいいなって思いました。声もいいし、あと、ベースになっているフレーズとか、和音がどの曲も綺麗で。耳に残ってハマっていく。”砂漠で”という曲の間奏の部分なんかエクスペリメンタルなジャズを聴いているみたいで。この一番最後の”ニュートラル”という曲が、私は一番好きかな」

日高「急にいい曲だよね(笑)。バラードとまではいかないけど」

三原「(笑)ちょっと静かになるんですよね。ライヴも観たんですけど、一人で出てきて、コートを着てマスクをして。始まる前の『長谷川白紙です、よろしくお願いします』っていう言葉もサンプリングされて、喋ってなかったり。そういう見せ方も新しかったですね。曲のプロダクションにも概念とかないし...すごい才能だなと思いました」

Licaxxx「ずっと聴いてると、エレクトーンでやるフュージョンみたいな感じがすごくしました、音質が。めっちゃフュージョンだなって(笑)」

日高「文句のつけようがない、天才ですよね」

後藤「音を詰め込んでいって良くなるって、あまりないからね。抜いていくと音が一つずつ見えてくるから、世界的にはそっちが主流ですけど」

三原「こんなに入るのか、これでもか、って(笑)」

後藤「このジャケットみたいな音楽ですよね、アートワークが体現してますよね。そう言えば、彼、いい曲を聴いたら譜面に起こすって話を聞きました(笑)。で、どこそこの音が良かったって指摘できる人だそうで」

日高「すごっ!俺たちはディミニッシュぐらいが限界だもんね、ギタリストなんて」

ROTH BART BARON “けものたちの名前”

後藤「去年のアルバムで足りないなと思ったことを、サウンド的に全部クリアしているアルバムだと思いました、僕は」

日高「音、良かったよね」

後藤「今回は本当すごい。サウンドデザインが美しいなとびっくりしました。文脈的には海外のインディー・フォークと繋がるところがあって。それを、出てきた時からずっと日本語でやっているというのも大変なことだと思うんです。インディー・フォークのバトンは、日本でもずっと手渡され続けているんだけど、評価する文脈がない。こういう音楽を評価する文脈があってもいいんじゃないかと、常に思います。ROTH BART BARONにはどこでこのスケールの大きな音楽を演奏できるのか、っていうすごく難しい問題があって。早いビートがあるわけじゃないし、モッシュもない、コールもない。ヒップホップももちろん盛り上がって欲しいけど、一方でこういう、インディー・フォークみたいなシーンも盛り上がって欲しい」

日高「例えばアメリカでいうディア・ハンターみたいなインディー・バンドの居場所が、日本にはないんだよね。俺、今回のノミネーションの後半のものは完全にジェンダーレスに感じたんですよね。長谷川くんもそうだし、フィーチャリングのものだと女性の声が乗っていたりして。で、これもゲストで何曲か女子も歌うじゃないですか。だから、別に本人たちはジェンダーレスを意識してないんですけど、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズに近いものがあるって感じました。さっきゴッチも言ったように、こういう音楽の居場所を作ってあげたいなと俺もすごく思うんですよね。ただただ、いい曲をやりたい、カッコいい音楽を奏でたい、っていうのが彼らの根底にあると思うし。その頭の中の地図とか設計図みたいなことを広げる場所が、最近は全然ないんですよね」

三原「すごく雄大な作品でしたね。前のアルバムも好きだったんですけど、その先に行っているなっていう感じがしましたし、こないだボン・イヴェールのライヴを観たんですけど、そういう感じも」

日高「ボン・イヴェールは近いね。声もジェンダーレスで」

三原「そうですね、あと歌詞の世界観も、悟っているというか。これをライヴで観たらめちゃくちゃ感動するだろうなって。」

福岡「このアルバムめちゃくちゃ好きでしたね。私は今回のノミネートの中で、一番コンセプチュアルに感じました。世界観とか、アルバム全部の歌詞とか、ジャケットも含めてすごく統一性があって、入り込みやすい。前回のノミネートの時よりも、もっと好きになりました。5月の目黒のパーシモンホールでのライヴ、すごく行きたいなと思ってます」

三原「行きたい!ライヴがいいって、みんな言います。めっちゃ観たいですね」

後藤「ホールは合いそうですよね」

Licaxxx「エレクトロニックなバンドが流行った時代って、日本にちょっと前にあった気がして。金沢に根付いていた時のRallye Labelにはこういうのあったし、もっと聴きたいなと思っていたのに、最近あまり聴けてなかったから、いいなと。京都メトロとか落合Soupとかでちゃんと聴きたいなっていう感じをすごく、受けました。日本の人はこういうのすごく得意だから、こういうのいっぱいあるよっていうのをもうちょっと外に発信できるんじゃないかなと。北欧的なテンションを感じつつも、日本独自にこのジャンルは発達してるとも思うので」

日高「確かに、金沢から京都ぐらいまでにかけて、多いイメージありますね。アシッドフォーク的な」

Licaxxx「そう。丁寧なシンセサイザーのプログラミング、みたいな感じで。もうちょっと聴きたいなと思いますね」

後藤「こういうバンドが、大ホールとは言わないまでも小さいホールで回れるくらいの、音楽的な場があるといいなって思いますね」

なみちえ “毎日来日”

後藤「宅録の音源だと思うんですけど、よくできてますよね。iPhoneで録ったっぽい音もあったり、面白いなと。自分に向けられる人種差別的な眼差しだったり、日々の想いとかが書いてある。言葉の使い方は鋭利だけどユーモアがあって、先鋭的だと思う。ヒップホップやラップミュージックってだけじゃなくて、社会への批評にも聞こえる。本当に考えさせられるものがあります。ユーモアと辛辣さのバランスが、すごくいいなと。『おーまぇにがーす』とか、僕らにはなかなか使えない言葉を逆手に取っちゃってるわけですよね。ニガーなんて使ったら、僕らブッ飛ばされるわけで」

日高「ちょうど一昨日くらいに、アメリカ人とニガーについて話してたの。日本のラッパーがニガーって使うのどう思う?って聞いたら、よくはないけど、アメリカに聴こえてこなきゃいいんじゃない、って」

Licaxxx「まあ、この曲は亀を逃がしてるだけですからね(笑)」

日高「(笑)そうそうそう」

後藤「ルーツに対する想いも込められていて、人種にまつわる自身の体験も歌ったアルバムのなかで『おーまぇにがーす』だから、言葉の聞こえ方が多面的になりますよね」

日高「挑発的でいいね」

三原「あの亀も外来種の凶暴な亀らしくて、それもすごいメッセージ性ある (笑)」

日高「俺たまたまTAMURA KING、ほら、なみちえちゃんたちが家族でやってるユニットがあるでしょ?あれを誰かがリツイートしてるのを見て、なみちえちゃんたちをフォローしたんですよ。そしたらソロででも面白いことをやってると知って、“おまえをにがす”のビデオを作って上げてるのを観たりして。去年末くらいからバズっていく過程を見てたから、親近感がありますね。ものすごく誤解を恐れずにいうと、ジャケの感じも含め、音楽界のフワちゃんというか、くつざわさんというか。だからこそ消費されないで欲しいなと思います、ユニークさだけで消費されちゃうと、もったいない。兄弟全員が才能あるし」

後藤「なみちえはアーティストだから、表層的な消費は拒むような気がします」

日高「そうだね。バズるって結局、商業的な消費になっちゃったもんね...それに巻き込まれるのが嫌だな的なことを歌っている彼女が巻き込まれると、気の毒だと思います。でも、そういう意味では正しいヒップホップですね」

福岡「私、ものすごい強烈な印象を受けました。漫画で例えると、『グラップラー刃牙』みたいな」

一同「(爆笑)」

福岡「本当にノー・ルールっていうか。どんな表現方法でも良くて、表現の一つのツールとして音楽がこれくらいできるけど、他の手段があればそっちでもいい、みたいなスタンスが本当に羨ましい。私には絶対にできないタイプの角度から音楽を作る人だなと。だから、出来る曲も『あ、そういう角度から槍を投げてくるんだ!』って感じが面白くて。フィーチャリングも、妹さんですよね。全体的に本当にすごすぎた(笑)」

後藤「ヒップホップの文脈とか、ヒップホップ愛に寄りかからずに思いっきり突き抜けちゃう。それは、すごいことですよね。逆に、ほかの人はやりづらい」

福岡「音もとても好きでした」

日高「本人が全部やってるんだよね、すげーな...ミックスやマスタリングも自分でしてるのかな? 本当すごいね」

後藤「僕、本人に申し込んで買ったんです。郵便局で代金を振り込んだら、彼女から直接送られてくる。全然届かないなあ、と思ってたら、ある日届いた(笑)。超DIYですよね。」

Licaxxx「私は動画を友達に見せてもらったのが最初で、めっちゃおもろいねと観てたんです、芸大生最近元気だなって。純粋に面白いというか、このノミネーションの流れの中に入っているのも面白い」

後藤「彼女を通じて、いろんな批評が立ち上がっちゃうんですよね。ヒップホップに対する批評にもなっているし、社会のあり様に対する告発でもあるし」

三原「すっごくはっきり、伝えたいことがそのまま伝わってくる作品だと思いました。なみちえさんの話を聞いている、みたいな。時代性もあってリアルで、自分も今の世の中でちょっとおかしいなと思うようなことが歌われていたり。そういうのはすごく、ヒップホップだなと思いましたね。あと作品としても面白かったです。韻も踏むし、目の付け所が鋭いし、それを言葉にするのがうまくて、ユーモアもあって。初めてなみちえさんを知ったのがたまたま観たライヴだったんですけど、オーラがありましたね。全然笑ったりしないシリアスな感じで、かっこよかったです」

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