APPLE VINEGAR - Music Award - 2020

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2020年3月4日、第三回「APPLE VINEGAR -Music Award-」の選考会が都内某所にて行われました。今年の審査員は、5名。第一回、第二回に続いて三回目の登場となる発起人の後藤正文さん(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、日高央さん(THE STARBEMS)、福岡晃子さん(チャットモンチー済/イベントスペースOLUYO社長)に加えて、DJやビートメイカー、ラジオパーソナリティーなど幅広く活動するLicaxxxさんと、タレントやラジオパーソナリティーなどでも知られる三原勇希さんという、5名の音楽好きが顔を揃えました。今回、福岡さんはスケジュールの都合でスカイプでの参加となりました。
女性が多く、それぞれが別々のバック・グラウンドを持ち、かつ年齢の幅も広い今回の審査員の顔ぶれの理由について後藤さんは、「音楽業界自体が男っぽいところがあるから、視点がちょっと変わった方がいいんじゃないかなと考えた」のだそう。それぞれの自由な視点から、ノミネーションされた10組を高い熱量と冷静な分析と、そして豊かな音楽愛とともにじっくりと語り合った3時間。その模様を、どうぞお楽しみください!

文:妹沢奈美 撮影:山川哲矢

Black Boboi “Agate”

後藤「音がいいですよね、とにかくね」

Licaxxx「そうそう、そうですよね」

後藤「ぶっちぎりに音がいい。ミックスしてる小林うてなさんってすごいんだなと思いながら聴きました。今年からミニアルバムとEPは(ノミネートの)対象外と言ってたのに、よく考えたらこれは6曲入りで(笑)。でも全然それを感じさせない、濃厚な作品です。下から上までちゃんと考えてサウンドデザインが良くできているなあと。きっとクラブとかで鳴らしても、低音が気持ちよく鳴る音作りですね、これは」

Licaxxx「私もBoboiはすごく好きです。声も含めて楽器として、聴いて最初に、エレクトロニックの旨味がしっかり詰まっていると思ったんですけど、ライヴでも世界観の作り込みというか、実際にライヴに落とし込むときにどうするかみたいなのをすごく考えてやっていて。すごく好きなタイプで、それをさらに超えて行くような丁寧な作品でした。あと常に三人の戦いがなされているのも、かなり好きでした」

三原「作り方も、全曲三人でっていう感じなんですよね?」

後藤「それで、6曲でもコンセプトがあるように聞こえるんでしょうね。一つの世界観がちゃんとあって、ブレていない感じがします。プレイリスト的な作品が多い中で、これはサウンド的にも詞の面でも、アルバム然としているなと」

福岡「私、この3人の方の中でJulia Shortreedちゃんだけ知り合いで。ライヴを見たこともあったんですけど、ソロの時とは違うアプローチで彼女の歌が入っているのが、すごく新鮮で素敵だと思いました。あと、3人ともDTMされるらしいんですけど、アンビエントな音って結構難しいじゃないですか。でもアンビエントなオケの中で、歌の配分というか、楽器として歌が鳴っているのに抜けが良くて、それがむちゃくちゃ気持ちいのかなと」

後藤「確かに、もっとマニアックにも振れるけど、ポップ・ミュージックに落とし込んでいる感じというか、ギリギリのところのセンスが素晴らしい」

福岡「そうなんですよ。それが気持ちいい。ヴォーカルも上と下がずっといたり、ハモリだけじゃなくてコーラスワークもすごくうまいなと思いました」

後藤「権威主義的に有名エンジニアに任せたわけでもなく、自分たちの手でここまで作り上げているのは本当にすごいなと思いますね」

三原「そうですよね、レーベルも自分たちでやっているんですよね」

福岡「すごく楽しそう。きっかけがレーベルの立ち上げで、その第一弾バンドなんですよね。インタビューを見ていても、3人がむちゃくちゃ楽しそうで。それが、いまの時代らしくていいなと思いました」

日高「名前もかっこいいですよね。女性なのか男性なのかも聴いていてわからない。大手が売り出すガールズ・バンドみたいなことを、もうやらなくていいっていうのが、いい時代だなと。一時期、女性アーティストをプロデュースするときに超ベタなガールズ・バンドのテイストを要求されることがすごく多くて、下手すると演者さん側も、個性の尊重や後先の保証が無いままにそれでいいって思っちゃうことも多くて、そういうのちょっと違うんじゃないかなとここ1,2年は思っていたから…独自の感性の人たちが自主的に面白いと思うことをやってくれるのはすごく嬉しいよね」

後藤「そうですよね、かっこいいですよね」

Daichi Yamamoto “Andless”

後藤「サウンドがカッコいいのと、トラックにオリジナリティがあるというか。どうしても一つのことが流行ると、みんなタッチが似るじゃないですか。例えば、不穏なアルペジオに、細かいハットやスネアが入ってくるトラップっぽいトラック流行ったり。Daichi Yamamotoはそういう質感じゃないですよね」

三原「私もこのアルバム大好きで、自分がDJやるときに使ったりしてます。大きい音で聴くと最高に気持ちいいんですよ。このアルバムが出るまでDaichi Yamamotoさんを知らなかったんですけど、すごい才能だなと。トラックの数も多いし、タイプもバラバラだけど、持っているフロウが多彩で全部オリジナルに乗りこなしてる。最初と最後の桑原あいさんをフィーチャーした曲はストーリー性があって、そこでぎゅっとアルバムとしてまとまっていますよね。ラップの中に頻繁にメロディーが入ってくるセンスとか、ハーモニーとかもすごいと思いました。あと、ラップによく入る合いの手的な声の種類がめちゃくちゃ多彩。聞いていて楽しかったです」

後藤「本人のプロデュースというのもすごいですよね。一緒に録ってる人たちもいい。中村佳穂さん、KIDFRESINO、VaVa、JJJ、桑原さんとかね。ヒップホップとインディー・ロックがボーダレスに繋がっている感じも好きですね」

Licaxxx「この人は2011とか2012年からずっとビートを聴いていたんだなっていうコラボメンツがすごい集まってる。Aru-2とかKM、Taquwamiさんとかもちゃんと抑えてる。あと、ロンドンに住んでいた期間が長いらしいんですけど、こっち(日本)のをすごく聴いていた感がめっちゃ出てる。最初何も読まない状態で聴いていたときはUKラップが好きなのかなと思ったんですけど、実際にインタビュー読んでもそう書いてあったので、結構硬い感じのラップが好きなんだなというのが伝わってきます。だから、すごくフレキシブル。今は日本にも住んでるみたいですが、海外の視点が自然に入ってきている感じがします」

日高「なんか俺、こういう人がなんでバンドやらないんだろうって考えたんだよね…グルーヴは限りなく生っぽく近づけて行くけど、机上で再現して行くという。でもそういう方がオシャレだな、ってバンドやってる俺自身も思うんだけど(笑)」

後藤「予算とかもあるんじゃないんですかね」

日高「とかね。バンドだと、逆にここまでは絶対にできないから。Daichiくんを聞いているときに、バンドをやる意味っていうのをすごい考えちゃった、いい意味でね。だから今はバンド側の方が、もっと差をつけるような音を出さなきゃなんだろうね。つまりバンドでこれからメロウをやる奴はちょっと工夫しなきゃなって」

後藤「日高さん、めちゃくちゃバンド側に偏った意見で面白いです(笑)」

日高「俺が言わないと、バンドがほぼ死に絶えるから(笑)。だからね、トラックメイカーって俺、メロコアだなと思ってて。NOFXとかメロディック・パンク、グリーンデイが出て来てみんなギターやベースを買ったのが、今みんなAbleton買ったりLogic買ったりCubase買ったり」

後藤「あるいはラッパーになったりする」

日高「そうそうそう」

福岡「私は感覚的な感想になっちゃうんですけど、初めて聴いたとき、すっごい感動しました」

一同「おおーっ!」

福岡「(笑)うわあ、って。毎年、このアップルビネガーで “自分なんかが選考していいのかな?” っていう気持ちになるんですけど、今年特に、自分の基準が通用しないなあっていうのをすごく思って。この作品は、私がどうこう言えないというか。かっこいいなと思ったけど、それよりもオリジナリティの迫力の方が超えてきた感じで。あんまり味わったことない感覚になりました。すごく感動しました。リリックもいいし、ちょっとウルっとしました。次世代ですね」

AAAMYYY “BODY”

後藤「エイミーは昨年、割とフライング気味でノミネートしちゃって、それが良かったのかっていう反省が俺の中であったんですけど。でも去年とはまた違う感じで、ちゃんとアルバムとしてまとめられた作品が出たので、もう一回まっさらに、今年もノミネートしなきゃいけない作品だなと思って」

福岡「やっぱりメロディーセンスが本当に素晴らしい。一曲の中でよくこんな良いメロディーばっかり繋いじゃうなと。これは二曲分にできるんじゃないか、というぐらい気持ち良くてポップなメロディーがいっぱい入っている。彼女がサポートをやっている時にも思うんですけど、いい上物を入れますよね。これは自身のプロジェクトの、自分だけの曲だけど、やっぱり上物の被せ方がうまいし、その差し引きのセンスがすごい。あと、彼女のInstagramもフォローしてるんですけど、発信していることがすごくバンドマンシップというか、かっこいいと思います。生き様が全体的にかっこいいなと」

後藤「社会的なこともちゃんと発信するし、そのあたりが新しいミュージシャンたちのすごいところだと思う。普段の発言から、こういう人が増えたらもっと健全というか、まともになっていくなって。でも会ったらすごくポップな人だし、不思議ですよね」

Licaxxx「私は、昔流行った宅録女子みたいなのと、シンガーソングライターの、いいところが全部合わさって最強になった、みたいな感じだと思いました(笑)」

後藤「確かに!」

Licaxxx「どっちにも振り切らないと言うか、むしろどっちにも振り切ってて相互の弱点を潰しあって最強になってるの、いいなって」

三原「声がめっちゃスウィートですよね。さらにコンセプチュアルな作品で、2615年のβの世界を生きるというそのコンセプトも面白いなと。このアルバムの解剖書があってそれを読んだんですけど、エイミーはNetflixとかでSFをたくさん見る人で。エイミーらしいいろんなSF的な世界と、彼女自身も海外経験が豊富でそういう友達とも今回曲を作っていると思うんですけど、そういったことからつながる思想と、あと今の時代を生き抜くため術みたいなものが、このアルバムの世界を作っている。聴いていて掘りがいのあるアルバムだなと思いました」

日高「俺は、これはもう300点満点です。やっぱり曲がいいんですよね…おじさんの80s心にもちゃんと合う。だからこれ…おじさんが褒めちゃ逆にダメだと思うんです。Licaxxxさんや三原さん世代の意見だけでいい、俺の意見はいらない(笑)」

一同「(笑)」

後藤「おじさんの意見で、角度が広がりましたよ今(笑)」

日高「そう?(笑)」

後藤「ダイバーシティって感じ」

日高「例えば俺の頃は、中高生の時に60、70年代の音楽を想像して作ってた。デヴィッド・ボウイやビートルズには間に合わなかったけど、残っている本とか見て、こんな感じかなジャカジャーンみたいなことをやってたんだけど、エイミーは多分、デペッシュ・モードとかデュラン・デュランとかの世代じゃないけど、こんな感じで素敵だったのかなピコピコー、みたいな…言い方がおじさんくさいな(笑)」

一同「(笑)」

日高「そんな感じに近かったら面白いなあ、と。全然違ってたらごめんね(笑)。きっと、自分の中の理想の電子音楽みたいな音と、理想の歌ものをやったんじゃないかなって…自分の中に、おぼろげにしかわからない80sの初期みたいな感触が、ギリギリあるんじゃないかな。ボーイ・ジョージの亡霊みたいなものが。俺とかゴッチだとがっつり記憶にあるから、ボーイ・ジョージのデジタル・タトゥーが入っちゃってる(笑)。そんなニュアンスが、すごくよかったな」

Sweet William “Brown”

後藤「ユニークなトラックを作っているビートメイカーですよね。唾奇とかJinmenusagiのアルバムも、質感が僕はすごく好きですね。バキバキじゃない、優しい感じ。サンプリング感があるというか、ちょっとナローな感じというか。やっぱり、こうやって流行り廃りと関係ないところで音楽を作っている人は好きだし、応援したくなる。でも、新しいものって多分、そういうところからしか生まれてこないんですよね。あと、記名性が高い音なところも好きです。この人に仕事を頼みたいなと思える。僕がSweet Williamにトラックを頼むとしたら、ケンドリック・ラマーみたいにしてくださいとは頼まないと思うんです。それって結構大きなことで。そういう人が…もちろん僕が知らないだけで他にもたくさんいるんでしょうけど、もっと表立って活躍できるようなシーンになったほうが面白いと思うんですよね」

三原「この作品がノミネートされたことは、すごく意味があると思います。というのも、彼の作品は前から好きで聴いているんですけど、いつも根本が変わらないんですよ。時代に左右されない、とにかく心地いいトラックを作る。もちろん、その中ですごく緻密なんですけどね。毎回そこまで変わったことをやっているわけじゃなく、でも、毎回いい曲で。目立つ作品じゃないけど、ちゃんと評価されて欲しいなと思います。音の凸凹とかリズムも実はめちゃくちゃ細かかったりする。聴いていて心地いいというのは、その作り込まれたことによって出来上がっているんだろうなと」

後藤「オーガニックな手触りありますよね。一つ一つの音の混じり方がすごく有機的に聞こえます」

Licaxxx「初めて聴いたときに、絶対Roland SP-404を使ってビートを作っていた時代から、ちゃんとビートを聴いている人なんだなというのがわかります。それだけ使ってビートを作る、っていう文化が何となくあるなかで、2010年や2011年ぐらいにたくさん出てきた時期があって。彼は90年生まれで私は91年生まれなんですけど、絶対聞いてたところが一緒だなと(笑)。名古屋とか、愛知周辺のビートメイカーでそういう人がいっぱい出てきた時期でもあって、STUTSとかもその世代なんですけど、聴いてるパイセンが一緒だったんだろうなあって(笑)。その時代の良さが、SP-404を通すだけでいい感じの…テープみたいなものを通してディストーションみたいなもののかかった状態のサンプリングをうまく組み合わせたビートが、しかも自分の手でサンプラーを叩いて作ったんだろうなっていうヨレ感が、染み付いているというか。その感覚を知って作っている感じが、優しい感じとか、オーガニックな感じになるのかなと」

後藤「名器ですよね、SP404。僕ですら持ってますもん。自分で打つと、人間的なビートの訛りが出るというか。グリッドを揃えて、みたいな作りにならない」

Licaxxx「あとこのアルバム、WONKのKan Inoueがミキシングとマスタリングやってるんですけど、エレクトロニックのベースの処理が、マジ天才。バッチリ合っているなと思いました」

福岡「Licaxxxさんがおっしゃってたんですけど、ビートが手打ちなんだろうな、と。それがめちゃくちゃ良くて好きでした。ブラジル音楽のサンプリングをうまくビートにのせて訛って聴かせるのが、すごくかっこいい。多分、今回のノミネートの中で一番聴いたアルバムだと思います」

一同「おおーっ!」

福岡「なんかもう、生活の中で鳴っていてすごく気持ち良くて。このアルバムはずっとスピーカーで流していたくなる。グリッドぴったりじゃない心地よい揺れを、こんなかっこいい音で作れるのは本当に羨ましいし、尊敬します。何かのインタビューで今使ってる機材を紹介してたんですけど、それ欲しいなと思いました(笑)」

日高「トラックメイカーってバンドマンにとっては、全然人種が違っていたのに、この5年ぐらいで同じになっちゃった感触があって…例えばフィーチャリングで歌わせるっていうのは、俺とかゴッチがやろうとすると大変だったんだよね…ちょっと前までは、自分たちのシングルとかで他の人も歌うとなると、まずメジャーのレーベルなんかの契約的な手続きが面倒臭いし、その煩雑さを先に想像しちゃって躊躇してしまったり。曲によって違う人が歌うのは、我々がバンドを始めた頃にはあり得なかった」

後藤「サポートが入るだけで怒られたりとか。バンドのメンバーだけでやれよって」

日高「そうそう。だけどそれがOKですっていうことを、ふと、これを聴いていて思い出したんですよ。採用するしないに関わらず、自分だけでデモをつくりながら “これ女の子が歌ったらいいな” みたいに想像することってあるじゃないですか。で、たまにプロデュースで使ったり、それもボツったら永遠に自分のハードディスクの中で埋没するだけですけど、なんか、こういう発表の仕方をもっとバンドの人もしたらいいのになって思った」

Dos Monos “DosCity”

後藤「変ですよね。めちゃくちゃ個性的。サウンドプロダクション自体は、自分がプロデュースやミックスに関わっているんだったら少し触りたいなと思うところがあるんだけど、それにしても、有り余るものがある。個性とか情熱とか、わからないですけど塊になって出て来ている感じ。言葉選びとかも含め、流行りの何かをやろうっていう感じじゃない。面白いですよね。ミックスはIllicit Tsuboiさんなんですよね、これも」

Licaxxx「Tsuboiさんにミックスをやってほしい、っていう人は本当に多いです。みんなそう思ってます」

後藤「今やOfficial 髭男dismもTsuboiさんですから。”Rowan”っていう曲。レジェンドですよね」

日高「でも気取りのないすげえいい人だったな…俺も随分前、LO-LITEだったかな…ミクスチャー系のバンドだったかな? ゲスト・ヴォーカルしたときにTsuboiさんが録ってて。多分、当時まだギリProtoolsじゃなかったかもぐらい」

後藤「インタビューを読んだら、パンクとかもお好きなんですよね」

日高「うん、前はバンドっぽいものもガシガシやってたから。すごく仕事も早いし、優しいおじさまな印象」

Licaxxx「この中で一番、曲を作っている荘子itと仲がいいんです。彼はカルチャーを吸収しまくった思想家、哲学家みたいな感じだと思います。本人の中に出来上がっているものもあるし、勉強家でもあります。何かについてすごく考えて、それに向かっていくタイプですね。本人が好きなものを全面に出しているのもいいですね。菊地成孔が好きだ!とか、OMSBくんが好きだ!とか好きが敬意となってちゃんと曲に表れてくる。いろんな現場に遊びに来て音楽を聴いているっていう印象もあります。まあ、とにかく本当にバグってますよね(笑)。ヒップホップとかどうでもいい、って言っているのがいいですよね」

三原「そうなんだ!へえー、その割りに、めちゃくちゃヒップホップだと思った」

Licaxxx「そうそう。裏返しなんだろうなあ、と」

後藤「サウンド的には、どちらかというとロック的なタッチがあって」

日高「言ってることともかね。パンクっぽい」

Licaxxx「サンプリングの手法とかがヒップホップの文脈にリンクしてる、っていうだけで。結構割と、アート活動というか、何かの提案に近いのかなっていう感じがする(笑)」

三原「私はアルバム一枚通して、この荘子 itさんの作るトラックがすごく不気味で、ユーモアやちょっと皮肉もあって、それがちゃんと『Dos City』っていう世界感に確立されているなと思いました。曲間のつなぎも、インタールード的な短い曲が入っているのも含めて、すごくいいなと。質感も好きでしたね。あと、これ聞いてると強くなる気がしました(笑)。熱いなって。」

後藤「荒廃した変な街に行って、帰って来た、みたいな感覚になりますよね、聴いた後に」

福岡「勇希ちゃんも言ったみたいに、熱いバンドマンの匂いがしました。すごくエモーショナルだなって思った。最初にゴッチさんの言った『有り余っている感じ』が、めっちゃありました。作品がエネルギーを放出しまくってるっていうか。そういう熱量がすごく伝わって来たので、なんだろう、自分も音楽やらなきゃ!っていう気持ちになってくる。3人のラップの個性がちゃんとバラけてるのもかっこいいですね。なぜか懐かしい感じもしますし、とにかく作品の強さが際立っているのがいいなって。あと、どのインタビューでも『バグを起こす』って言ってて。それが、何かを期待してしまうし、今どきじゃない感じですごくいいなあって思いました」

Licaxxx「荘子itはDATSのミックスとかもやっていて。音に関しても、自分の好きな音がちゃんとある。なので自分の家のコンセントの電圧を変えたりする、みたいなタイプ(笑)」

日高「これも、家で録ってる可能性はありますよね」

Licaxxx「やっぱり、ロンドンで録ったときのアレがやばかったから、やっぱ電圧だわ、とかいって改造したみたいなこと言ってたような…(笑)」

日高「それは、バンドマンは一度は通る道だね(笑)。俺はまず、この質感はskillkillsとかにも通じるなあって思って…対バンはしてないのかな? あんまり関係のない話かもしれないんだけど、最近、メロ・ラップっていう言葉が普通に通じるようになったことにびっくりして。例えばプロデュースしていて『大サビでメロ・ラップ入れるのはどう』って提案しても前は通じなかったんだけど…歌うようにラップする、半分歌ってるようでほぼほぼラップしてるっていうニュアンスのことなんだけど、バンドものを手がけてるとけっこう出て来るの、ここ数年は。でも、もはやそういう概念とかも関係ないのが羨ましいなあと。skillkillsとかまさにそうで。あれをメロ・ラップって思う人はいないけど、でも、普通のヒップホップよりも歌ものに近いといえば近い。だから、skillkillsと合体して一緒に何かやったら面白そうだなと」

後藤「ああ、後ろがバンドの生演奏で」

日高「そう。一緒にスプリットを作るとかね。色んなグルーヴで発信することを楽しめそうで、シンプルに羨ましい」

後編&大賞は4月に発表