大賞選出
後藤「今年は去年の三倍の賞金があるので、ひと組を選ぶのじゃなくてもいいかなと思います。その分配の方法も、みんなで考えたいなと」
福岡「私も、レコーディングとかで、自力でここまではできた、でもあと少し伸ばしたい、っていうところに賞金が行ったらいいなと思うんです。120万円って、最初からいろいろできるじゃないですか。でも、理想にちょっと近づくような値段を何人かに分けるのもいいのかな、って思いました」
日高「確かに」
後藤「それぞれがいい人をまず挙げていきましょうか。審査員一人が2組ずつあげるとしたら、僕は…中村佳穂さんと、折坂悠太君って感じかな。この二作はやっぱり、ユニークだなと思いました」
Chara「私は折坂くん、中村さん、KID FRESINO、AAAMYYYかな」
日高「俺はAAAMYYYちゃんと長谷川君白紙くんかな。長谷川君は実体がわからないから、逆に、賭けてみたい。パンクロックの未来を、彼に掛けてみたい。…GEZANもいいんだよな、だからこの3つかな」
福岡「私はKID FRESINO、中村さん、Tempalayですかね」
日高「中村佳穂ちゃんは大賞間違いないね、4人中3人が選んでる」
福岡「うーん、私、折坂さんも挙げたいなあ」
後藤「ノミネート作品を聴き返しているときは、KID FRESINO、中村さん、折坂君は音楽的に突き抜けてるなと思ってました。でも、この12組はそもそも、全部いいですよね」
日高「俺がAge FactoryとGEZANにあげないと、やっぱり、バンドの未来がない気がする」
後藤「うーん、確かに。中村さんを大賞にして、あとは分けるとかどうでしょう」
日高「そうだね。60万円が大賞で、あとは30万円ずつとか」
後藤「KID FRESINOと折坂君に?」
日高「うん」
Chara「AAAMYYYがいいな」
後藤「AAAMYYYもTempalayも入れて、ちょっと金額を細かく分けるとか」
一同「(笑)」
Chara「AAAMYYYは、じゃあCharaがご飯をごちそうしてあげるよ(笑)」
日高「AAAMYYYちゃんは、“Chara賞”で(笑)」
福岡「めっちゃ悩みますよね。Age FactoryやGEZANのどちらかも入れたい気持ち、確かにあります」
日高「ノイズ・チームね。チーム・ノイズ(笑)。でも10万円ずつに細かく分けたら面白くないもんね」
後藤「20万円ずつ3組に、っていうが分け方もありますね」
福岡「ノイジー・チームが一つはいると、なんだか夢がありますよね」
日高「このチームから一つ。行きましょうか」
福岡「うーん難しい…私はGEZAN好きです」
日高「GEZANで行きましょうか。皆さん、いいですか?」
後藤「そうしましょう。じゃあ、大賞は中村佳穂さん。そして特別賞がKID FRESINO、折坂悠太くん、GEZANということで。いろんな視点からの評価なので、特別賞ってことでいいですよね。この3作品に、20万円ずつ。なんだかすごく、面白い賞になった気がします」
Chara「うんうん」
日高「確かに。この4組が一緒にライヴすることは、ほぼあり得ない気が(笑)」
後藤「この4組で、APPLE VINEGARライヴとかあったら面白いですね」
福岡「観たいー!!」
中村佳穂 “AINOU”
KID FRESINO
“ài qíng”
折坂悠太
“平成”
GEZAN
“Silence Will Speak”
Chara「ゴッチ君中心に始まってこれで2回目、素晴らしい試みだなと思います。私も若手の方に刺激をもらうのが大好きで。やっぱり音楽が大好き。だから、若い人のものを久しぶりにこうやってたくさん聞かせていただく機会を与えてもらって…私は自分をアルバム・アーティストだと思っているんですけど、皆さんのアルバムをジャンルに関係なく聴けて楽しかったです。今日、ゴッチ君が一番言っていたのが『美しいですね』って言葉。本当に音楽を心から愛する姿っていうのはこちらが『美しい』って感じるんだなあって、私も思いました」
日高「今、音楽の過渡期ですよね。サブスクに移行して、フィジカルがどんどんなくなっていって。悪く言えば音楽業界衰退ですけど、よく言えばチャンスですよね。宅録の人が出やすくなったし、宅録って言葉自体のイメージが全然悪くない。逆に、それでバンドが元気がなくなっている状況もある。それはバンドやっている俺からしたら辛いことなので、バンドに力がない時期を逆にチャンスと捉えて、自分もフィードバックしたいし、新人の人たちにも、いろいろと超えていくアイデアを聴かせて欲しい。そういう意味でも、もう期待しかない今回のAPPLE VINEGARでした」
福岡「やっぱりアルバム・アーティストってすごく実力があるんだなと、改めて思いました。何回も聴いていると、どんどん好きになっていく。去年よりもさらにジャンルが細分化され、そういう人たちが同時に出てきている時代というのが、すごく羨ましい。もう一度、この時代に生まれ変わりたかったなと思うくらい。ゴッチさんが言うようにすごく美しいし、いろんな色がある音楽の時代ですよね。SNSの炎上とかで結構みんな抑圧されているから、そのカウンターで、逆に尖っている人が増えているような感じがありましたね。だから音楽的には、いい畑ができているんじゃないかなと思いました」
後藤「今回、皆さんにお付き合いいただいて、本当に嬉しいです。確かにアッコちゃんが言うように、そしてCharaさん、日高さんのお話にもつながりますけど、鳴らしたいものがある人だけが面白いものを作る時代になったなと。『お金になる/ならない』というのを、幸か不幸かあらかじめ考えている場合じゃないというか、大富豪にはなれないとわかっている前提でみんな始めている。だから、切実な作品が増えているなと思います。ジャンルはそれぞれ違うけど、みんなこれを鳴らす理由があって鳴らしている。ズバッと言葉にならなくても、これがやりたくてやってるんだという感じがすごく出てますね。だからノミネート作品はどれも美しくてカッコよくて、聴いていると僕も『はやく音楽作りたいな』と(笑)。スタジオに入って、新しいものを作りたくなりましたね。リスナーとしても楽しいし、一人のミュージシャンとしても焚きつけられました。
今、音楽をやっていて、メジャーにいる自分が言うのもなんだけど、『倒すべきカルチャーがない』って思うんです。カウンターでいたいんだけど、そもそも真ん中に誰もいない…みたいな。だから革命とかじゃなくて、僕は農業改革をしているイメージなんですよね。土から豊かにしていくような。こういう賞によって、草の根的な循環を作って、いい土ができたらいいなと思います。だから、10年続けて、こうした循環のなかから芽を出す人が増えたら、きっと楽しいだろうなと思います。今回は、どの作品も素晴らしくて、一つに選ぶのは大変でしたけど、でも、今年も素晴らしい作品と審査員に恵まれました。ありがとうございました」
文:妹沢奈美 撮影:山川哲矢
撮影協力:Billboard cafe & dining