APPLE VINEGAR - Music Award -

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3月6日、渋谷某所にて第一回「APPLE VINEGAR -Music Award-」の選考会が行われました。審査員はGREAT3片寄明人さん、THE STARBEMS日高央さん、チャットモンチー福岡晃子さん、そしてこの新人賞の発起人であるアジアン・カンフー・ジェネレーション後藤正文さんの4人。アツく、楽しく、ゆるく、そして音楽愛を丸出しにしながら3時間にわたって行われた選考会の模様を、文字数が許す限りの長編にてお届けします!

文:妹沢奈美 撮影:山川哲矢

審査員

後藤「新人賞って、将来性に業界人が投票する、みたいなのが多いと思うんですけど、ミュージシャンをやってきて思うのが、ミュージシャンはずっとやっていると褒められる機会が少なくなる(笑)。若手のときから、いい環境でいい作品を作れる人はそんなにたくさんいないんじゃないかと思うんですよね。3作目くらいまでにものすごくいいアルバムを作ることはあるけど、その頃には「期待の新人」っていう冠は取れてしまって、新人でもなければ、中堅とも言いづらい立場になっている。で、音楽業界全体を見ていると、そういう人たちが経済的にも、メディアからの取り上げられ方も、一番しんどいのかな、っていう感じがする。なので、将来性とかじゃなくて、若い人たちがいいアルバムを作ったときにちゃんと評価する賞があるといいな、って。文学だったら芥川賞があったり、芥川賞の評価体系から外れた人には三島賞があったりして、いい作品を作ったときに作家たちを評価する仕組みが良くできているのを、うらやましいなと思ったんですよね。今回の芥川賞は63歳の方がとりましたし、「新進気鋭の作家」の幅が広い。そういう賞が音楽にもあるといいなと思って作ったんです。ミュージシャンでもプロデューサーの視点のある人が作品を評価したほうが面白いのかなと。そこで僕がパッと思いついた、プロデューサー3人に審査員をお願いしました」

日高「うん、ゴッチは文学に例えてくれましたけど、俺、下世話に言えば音楽版M-1だと思ってるんですよ。たぶん、俺が今日の下世話担当じゃないですか(笑)。M-1だと15年まで出演可能で、さっきゴッチが言ったように、音楽は3~4年で媒体に出る機会が減ることもあるけど、芸人は等しく15年目まではネタを披露するチャンスがある。そういう意味で、すごくいい賞だと思います。」

片寄「面白そうなのを始めるなと思って見ていた企画だったけど、でもいざ、ゴッチくんから連絡が来て受けた後に後悔しましたね(笑)。なにしろどれも素晴らしい作品で、俺に評価する資格ないだろっていう気持ちもある(笑)。でもとても面白く、勉強になりました。すごく刺激的な10枚を聴かせていただいたので、いい機会になります、ありがとうございます」

福岡「私は、ゴッチさんのツイッターで見てたんです。レコーディングの費用が若い子たちはないから、10万、20万円程度でもあったほうがいいんじゃないか、というのに『確かに』って思いながらぼやっと見てたんですね。私、最近チャットモンチーでトリビュートアルバムを作ったんですよ。それに645組の応募があったんですけど、2組しか選べなくて。それがすごく大変だった。一応、チャットモンチーしばりだったから出来たんですけど。ゴッチさんから連絡があった時、どういう意図でこういう企画をされたんですかと聞かせてもらったら、初夢で、この賞をつくるという淫夢を見た(笑)。それ、すごく分かりやすいですよね。夢に見たとか言う理由は、やっぱりロックバンドっぽいなと(笑)。それに乗っかりたいなと思ったんですけど、片寄さんも言っていたみたいに、めちゃくちゃ難しくて。私まだ正直、一番とか選べてないです。今日、皆さんと話をして決まるかな、っていう感じで来ました」

東郷清丸 “2兆円”

後藤「これは前半の曲のクオリティが高いし、エネルギーがあったのと、総合的に面白いなと思って選びました。音は手作り感ありますね」

日高「俺はこれ、誰かがTwitterで押しているのを見て。ジャケもすごいなあと(笑)。でも岡崎体育みたいなのを想像すると、ちょっと違うというか。ディスク2は打ち込みだから…多分彼は、DTMで作っているんじゃないかな? そんなに予算をかけていない感じはするけど、クオリティが低いわけじゃないし。あと、俺、個人的に打ち込みの曲の方がすごく良くて、こっちでいいのに、と思った(笑)」

福岡「そうですね、より東郷さんが伝わるというか、身近に感じたのは私もB面です。彼は映画や舞台の音楽もされているみたいで、そのトラックが多分ここに入っているから、B面は作品集みたいになってるんじゃないかなあ。トラックがむちゃくちゃカッコよくて、すっごい多彩だと思いました。」

片寄「僕は、この作品にはこの人の全部が入っているなと受け取ったね。最初に聴いたときは、すごく真っ当なことに驚いた。ジャケから想像して、もっとキテレツなものが出てくると思ったから。それに声がね、僕にはとても真面目さをはらんでいる声に聞こえて、絶妙にずらしたトラックとのギャップがいいなって思った。あとね、ギターのプレイがすごく良くて。指で弾いているときなのかな、音の質感にグッとくるんだよね。リフと歌の関係も、すごくセンス良くできている。R&B、ファンク感がある曲もけっこう多いじゃないですか。だけどそれがオシャレにおさまってないところが、この人のいいところだなあと。こういうのをオシャレに表現するって、いまありがちだから。特に"劇薬"っていう曲がすごく好きだった。“赤坂プリンスホテル”も良かったなあ」

後藤「自分の色があるのがいいですよね。ああ、変わってるなあと」

片寄「ある意味、それってすごくファンクですよね。本当の意味でのファンク感というか。それがすごくあるなと思う。いいよね」

日高「会うとどんな人なのか、気になりますね」

片寄「レコーディングとミックスをしているのは、ドラムとサックスを吹いているかたなんですね。聴いていてドラムとサックスがすごいな、すごくいいなと思ったんですけど、自分でミックスしてるから特にそうなのかな(笑)。飽きずに聴かせる工夫も印象的でした。同じムードの曲が続いてダレそうになると、カンフル剤のような一発がちゃんと入るようになっていて」

後藤「若い子たちにとっては、こういう曲数の多さは普通なのかなと思ったりもするんですよね。最近、人によってはアルバムに曲をたくさん入れてますよね」

福岡「チャットもデビュー当初は60曲くらい持っていて、いつ出しても別にいいと思っていたんです。でもシングルとしては1曲しか出せないということをデビューして知った(笑)。で、じゃあこのいっぱいの曲はいつ出すんだ、みたいに私たちもなってたから、全部出したいっていう気持ちはすごくよくわかりました。けど、東郷さんはインタビューで『もう一曲もない』って話してました(笑)。全部出しちゃった、って。わたし、"任せて!インサツレンジャー!"がめちゃくちゃ好きです。この方、活版印刷屋さんなんですよね。だから、印刷屋さんをやりつつ、ジャケとかもたぶんそこで自分たちで作っている」

Awich “8”

後藤「これはとにかく、クオリティが高いですよね。今回の10枚には、JJJとかPUNPEEとかも選んでるんですけど、僕はヒップホップが好きで聴くんですよね。これはたまたまYouTubeで2曲目に入っているシングル曲の“Crime ft.kZm”を聴いて、むちゃくちゃいいな、この人はどこの国のひとだろう? 日本人だ! と驚いて。それで、ずっと新譜が出るのを待ってて。アルバムを聴いたらすごく良くて。プロデューサーのChaki ZuluはMIYAVIとかもやってるんですよね」

片寄「僕も、最初は日本の音楽じゃないと思った。一聴した質感や、声の感じも含めて。すごくセクシャルで強い声をしている人なんですけど、同時に哀しみや覚悟みたいなものを声の成分の中にすごく感じて。ヘヴィーな世界にも連れて行かれるんだけど、ある意味でとても真面目な音楽に僕は受け取りました。歌詞を見るに、プライベートなことを歌っているはずなのに、聴いていると、その後ろにとても大きくて深いものを感じるんだよね。スピリチュアルと表現したらよいのか…プライベートなことにはじまって、結果的に、すごく大きなものに繋がっている。それがとても印象的でした」

福岡「わたしは、やっぱり女性として凄く強いというか、憧れる部分がすごくありましたね。歌もそうなんですけど、日本語が不自然じゃなくすごく力強く入っているし、映像も見たんですけど、すごくセクシーなのに、そこを見て欲しい感じじゃない。セクシーさは女としてある部分だけれども、なんていうか、とにかく強いなあ、と思いました。片寄さんもおっしゃっていたんですが、映像とか見ていると悪そうな人たちと絡んでいるけど、でもやっぱり真面目というか」

片寄「真面目というか、慈悲があるって言ったほうがいいのかなあ、言葉としてはもしかしたら」

福岡「うん、そうですね」

片寄「特に13曲目の"Ashes"は、すごく大きな世界を描いた曲で、トラックも含め、僕はとても感動しました。」

日高「曲、いいですよね。Chaki Zuluの力もあるのかな…トラックメイクの人ってメロディーから作らないでしょ? 文字通り、トラックから作る、それが全部の曲って考えると、やっぱりトラックメイカーさんってすごいなって思う。」

片寄「ヒップホップのラッパー、シンガーたちの中には、楽器はやらないけどトラックをもらえばその上にいくらでもメロディーが浮かぶ、っていうタイプも多いでしょうね。で、そんな風に生まれたメロディーは、いわゆる音楽理論的に言うとトラックのコードとぶつかったりする瞬間もたまにあるんだけど、それこそがフックになって、めちゃめちゃキャッチーだったりもする。僕はそういうのが好きだな」

日高「そういうのがたぶん、成熟した状態っていうのがこの作品にはありますね。31歳の女性が、これはすごいな。実際壮絶だものね、旦那さんが殺されてしまったっていう」

福岡「一児の母ですよね、しかも」

片寄「娘さんの声も入っていましたね」

後藤「素晴らしいアルバムです」

吉田ヨウヘイ group “ar”

後藤「このバンドも、キャリアあるんですよね。今まで彼らの作品を聴いてきて、ここをこうしたらいいのになと思っていたところが、今回は全部解決されていただけじゃなくて、僕が思っていたのをさらに上回っていた感じ。普通に、リスナーとしてカッコいいと思った。プロダクションや録音も丁寧だし、こういうバンドがブレイクスルーを起こす瞬間が、僕はすごく好きで。そういうところも評価したいなと。デビュー・アルバムじゃないけど、自分たちなりの何かを獲得したアルバムなんじゃないかな、と想像するんです。ダーティ・プロジェクターズやいろんな洋楽からの影響を感じますけど、上手く咀嚼していて、そういうところにも感激しました。全方位的な向上心が形になったような気がします。音楽的な努力を考えると、大きな拍手を送りたい作品だなと思いました」

日高「俺、個人的にこれが一番好きだった。なんか、まだメジャー・ブレイクを忘れて無い感じというか。ダーティ・プロジェクターズになりたいけど、ちゃんとオリコンにも入りたい感じがしたんですよ、いい意味で。メジャーの人が聴いても通用するものにしたいんだ、っていう気概をすごく感じましたね。あと、女子に歌わせ始めたことで、ヌケが良くなったというか。なんか、最初期の空気公団に聴こえる瞬間があって。彼らが出てきた時の衝撃とか、そういう方法論があったんだっていう提示の仕方に、近い感じがします。ダーティ・プロジェクターズの影響下にあるバンドは日本にいっぱいいると思うんですけど、そういう人たちは地団駄ふんでるんじゃないかな(笑)。超良かったです。俺的なヒット賞をあげたい」

片寄「僕もダーティ・プロジェクターズやnhhmbaseが頭に浮かんだけど、取り入れ方が巧みで昇華のさせ方がポップ。テクニカルに構築された音だけど、どこかにユルさがあるのがいいなーと。あと、複雑なコード進行におけるメロディーの帰着のさせ方が、ちょっとブラジルのミルトン・ナシメントみたいな瞬間があってね、叙情的な旋律にもグッときましたね。ボーカルは朴訥とした直線的な歌い方で、決して技巧的じゃないんだけど味がある。その感情表現が平坦なところも、この音楽にはすごくうまく作用しているような気がした。音像的にはもっと太い音で、あと一歩重心が下がったらどんな感じに聞こえるのかな、と思いましたね、これは好みなんですけど(笑)。とてもいいバンド。バンド名もいいね!洒落があって。ギターのトーン、時折入るピアノもすごく効果的で。才能あるなあ、って思いましたね」

福岡「皆さんも言われたんですけど、わたし、最初に聴いてやっぱり、アレンジがすごいなって思った。ダーティ・プロジェクターズの匂いは感じたし、実際にご本人も好きだと言ってますが、難しいことをしようとしている感じが伝わってきて。さっき片寄さんもおっしゃってましたが、それもちょっとゆるくなってていい、って思いました。ご本人たち、もっと上手くなりたいってインタビューで言ってるんですよ、めっちゃうまいのに(笑)。でも、その気持ちがすごくわかって。やりたいところに音を入れられたらこの人たちはどうなっちゃうんだろうっていうくらい、唯一無二のバンドになりそうな感じがすごくありました。あと、メンバーそれぞれがバンドにおけるバンド・パワーを担っている気がして。すごく、バンドの体力があるなと。打たれた時にどう対処するのかがバンドが長く続く秘訣だと思うんですけど、それが、メンバーそれぞれにありそうな感じがしました。展望とか野望が、それぞれありそうだなと音を聴いて思いました。あと、歌詞がすごい俯瞰というか、神様目線で。googleの地図にピンを落としたみたいな、すごくピンポイントのことを歌っているのが、珍しいな、面白いなと思いました」

JJJ “HIKARI”

後藤「JJJはFla$hBackSで出てきた時から、トラックがいいなと。この人はギターを使うのが上手いですよね。ギターの音がすごくいいんですよ。それが、ロックミュージシャンとしてもうらやましい。トラック全体の中域にあまり音を詰め込んでないから、ギターがいい音に聴こえる。アルバムもすごく良くて、特に5lackとやった曲なんかは、ときどき頭の中にフックが流れるくらい好きですね。ラッパーとしてもカッコいいし、トラックメイカー/プロデューサーとしても僕は素晴らしいなと思います」

片寄「昔からUSのヒップホップが好きなんですけど、ただ単にひとつの音楽として聴いてきただけで、ラップのバックグラウンドとかカルチャーを僕はよくわかっていない、しかも日本のヒップホップをほとんどちゃんと聞いたことがなくて。だから完全に門外漢なんです。でも今回選ばれた作品はどれもとても面白かった。特にこのJJJは、すごく好き。何より、トラックが超好みなんですよ。サンプリング・センスもスウィート・ソウル・マニアの僕には完全にツボでね(笑)。特に12曲目、Fla$hBackSとの"2024"は、これ使ってきたか~!って、それだけでもう、やられちゃった」

日高「意外とメロウなのが好きそうだよね、この人は」

片寄「そう、メランコリックでちょっと切ないコード感のトラックも、けっこう多くて。僕がまた、そういう哀愁に弱かったりするんですよ。ミックスはillicit Tsuboiさんなんですね。音がいいなぁ。ローファイなサンプルの質感と、そこに打ち込んでいるハイファイな音色の混ざり方が好き。その質感にどこかサイケデリックなものを感じつつも、印象はすごくクリアで、耳心地もいいんだよね」

日高「Tsuboiさんは日本のリック・ルービンだよね。ロックものも聴いているヒップホップの人、という」

片寄「Twitterを見るにサイケデリック・ロックにも造詣深い人で、そのエッセンスがヒップホップのミックスにも隠し味で感じられる気がして好きですね。あと、ゴッチくんが言ったように、JJJはギターの扱いも非常に巧みで。ギターが印象的なヒップホップで僕がすごく好きなのが、Q-tipの「Kamaal The Abstract」なんだけど、あれを聴いた時の興奮を思いだした。それにサンプルの組みかたもアーティスティックというかな、トラックだけでも聴きたい音。90年代にDJシャドウを聴いたときみたいなイマジネイティヴな気持ちにもさせられて、僕は大好きだった。これは買いたいな、お金出して買わないといけないなと思った1枚でした。教えてくれてありがとう(笑)」

後藤「(笑)いえいえ」

福岡「わたし、今回久々に人のインタビューをいっぱい読んだですけど、ヒップホップに関してあまりに私に知識がないので、このJJJさんの作品に参加している人たちの凄さと、音楽的なところが自分の中でリンクしづらくて。ルーツやフィールドのことはわかんなかったです。聴いたときに、基本はちょっとオールドスクールなのかなって思いました。なんていうか、私が知っているヒップホップの懐かしさがあると思って、そうすると、新人という印象はしなかったですね」

日高「確かに、街のリアルと、それでも前向きに行こうっていうのは、王道といえば王道だからね」

福岡「そう、だから音楽的に核となる部分の読み取りが私には難しかったです。」

後藤「なるほど」

ゆるふわギャング
“Mars Ice House”

後藤「彼らは本人たちのキャラクターも含めて、フランク・オーシャン以降の感じというか、ギターロックのファンも聴ける、インディロックっぽいヒップホップだと思いました。JJJみたいなヒップホップの本流みたいなものとも少し違う、もっと今っぽい感じがいいですね。新しいポップスとして、構えずに聴けちゃう。僕みたいなオジさんが聴いたら、ちょっとわかんない言葉遣いもあったりするけど(笑)、僕たちがやっていることと、そんなにサウンド的には隔たっていないところもあって。面白い感覚だな、カッコいいなと思って選びました」

福岡「メモの一行目に『好み』って書きました(笑)。わたし、大好きですゆるふわギャング。すぐ買いました。多分、今回の中でかなり好きな方で、音を入れすぎていないところがすごくいいなと思ったのと、男女のキャラクターでちゃんと上手くやってて。あと、リリックがすごくいいなと思いました。オシャレでかわいくて…わたしは韻とかわからないんですけど、わからなくても、リリックってこんなに面白いんだと。かわいいし、若かったら真似したくなっただろうな。しかも、女の子がコーラスをしている場面が多いんですけど、コーラスが入ってくるところが、絶対に私はしないだろうなっていうタイミングなんですよ。"Fuckin’ Car"っていう曲は途中から女の子になるんですけど、最後の『カー』からコーラスに入るんですよね。ええっ、と。なんで途中から入るんだろう、って興味津々で何回も聴いちゃいました。あと、トラックメイカーさんと男女2人の3人組なんですよね。で、トラックを作ってもらったら、この男女2人が車の中でリリックを作りながら走っているそう。めっちゃやりたいそれ、って思いました(笑)」

日高「俺もこの作品は大好きですね。ユーモアがちゃんとある、テーマは軽くはないんだろうけど。…そっか、車だからスタジオがFuckin’ Car Studioなんだろうね。新しいね、作り方が。メンバーとドライブして曲を作れ、って言われたらちょっとツラいだろうなあ(笑)。トラックメイクまずありき、っていうのは彼らのポイントとしてデカいですよね、それが若い子たちは普通ですもんね。アレンジどうこうじゃなくて、何を歌うか、ラップするか、っていうことに集中できるというのはいいね。トラックメイカーのプレッシャーはでかいんでしょうけど」

後藤「演奏しなきゃ、っていうしがらみから逃れられるのはうらやましいですよね」

片寄「インストをレコーディングしてから、車でメロディーを練ったり歌詞をゆっくり考えるのが昔から好きだったんだけど、変わったやり方だったのか(笑)。目の前でリアルに流れていく景色とリンクした言葉が出てきやすくていいよ。僕は今回の候補作の中で、歌詞を見なくても言葉が一番伝わってきたのがこのゆるふわギャングでした。キャッチーなワードがどんどん耳に入ってくる。声の質感もあって、この2人が…言葉を発している顔つきまで浮かんでくるような感じがしたんだよね。最初はちょっとエレクトロな感覚が自分の好みとは違ってね、苦手なトラックかなと思ったの、前半で。だけど後半、“Sad But Good”っていうトラックからぐいぐい引き込まれていきました。僕は多分、暗いものがすごく好きなんだよね。『マック』とか『サザエさん』とかすごくキャッチーな言葉があちこちに散りばめられているし、軽いイメージもあるけど、実はとてもディープなことが根底にあるような気がして。それを、気負いなく表現しているのが、すごく良かった。“大丈夫”とか“Sunset”とか、聴いていて心に刺さりました。ドラッグやバイオレントなモチーフがあったうえで、最終的な印象はすごくポジティヴな明るさがある。重いのに軽いというのは、すごい才能だなと思いました」

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